
建設業における働き方改革:残業規制と生産性向上のポイント
公開日:2025.02.21
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近年、社会全体で「働き方改革」が叫ばれるなか、建設業界も例外ではありません。過酷な労働環境や人手不足、長時間労働などが指摘される建設業界は、働き方改革の中でも最も注目を集める業種の一つです。とりわけ、2024年4月から適用される時間外労働(残業)規制は「2024年問題」として大きく報道され、建設業の経営者や現場関係者にとって大きな関心事となっています。
本記事では、建設業の働き方改革に焦点を当て、残業規制の背景や具体的な制度内容、そして生産性向上の具体策や成功事例をわかりやすく紹介します。人手不足の状況下でどのように工期や品質を確保しながら働き方改革を推進するかは、多くの企業にとって喫緊の課題です。これを機に、従来の慣習を変えるヒントをつかんでいただければ幸いです。

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参考記事:建設業の2024年問題とは?人手不足解消のために建設会社ができることを解説。
参考記事(外部サイト):働き方改革で施工管理はどう変わる?影響や変わる働き方、対策などを解説
建設業の働き方改革が求められる背景
建設業特有の人手不足
建設業は、高度成長期に主力として活躍した熟練技能者が大量に定年を迎える一方、若年層の入職者が減少傾向にあるため、深刻な人手不足に陥っています。また、3K(きつい・汚い・危険)のイメージが根強く、さらに長時間労働や休日の少なさから、若者から敬遠されるケースも珍しくありません。
その結果、残っている現場スタッフに過度な負担がかかり、さらに労働環境が悪化するという悪循環が生じています。建設業の働き方改革は、この人材確保の面からも急務といえます。
長時間労働の常態化
建設業の現場は、工程や天候、資材の納期など、さまざまな要因によってスケジュールが左右されやすい特徴があります。工期に追われる中で残業や休日出勤が慢性化し、結果として労働者の健康を害するリスクが高まっています。長時間労働は労働災害のリスクも上げるため、安全管理の観点からも大きな問題です。
技能承継と品質確保への懸念
熟練した技能者の引退が相次ぐ中、若手の育成が進まないまま現場を回すケースが増えています。長時間労働や働きにくい環境が続けば、さらなる人材流出を招く可能性が高く、品質確保や技能承継の面で重大なリスクが生じます。こうした状況を打開するためにも、働き方改革による労働環境の改善や生産性向上が不可欠です。
建設業残業規制の要点
新しい時間外労働の上限規制(2024年問題)
「働き方改革関連法」の一環として、建設業界にも時間外労働(残業)時間の上限が設けられることになりました。建設業に対しては他の業種より猶予期間が設けられていましたが、2024年4月以降は年間720時間(単月100時間未満、複数月平均80時間など)の上限規制が適用される予定です。
これまでは工期の遅れや天候不順などを理由に、現場が長時間労働を強いられるケースが少なくありませんでした。しかし、今後は法的に残業時間が制限されるため、従来のやり方を続ける企業は、工期の遅延や違法残業による罰則リスクに直面することになります。
36協定(サブロク協定)の変更点
残業を行う場合は、労使協定(36協定)を締結して労働基準監督署に届け出ることが必要です。建設業でも同様ですが、今後は上記の時間外労働上限を超える残業は原則認められないため、36協定を結んでいても上限を超える時間数で協定を結ぶことはできない点に注意が必要です。違反が見つかった場合には、企業や現場監督者が行政指導や罰則を受ける可能性があります。
特別条項でも限度を超えられない
繁忙期に対応するため、36協定には「特別条項」を設けることが可能です。しかし、特別条項があっても上限規制を完全に撤廃できるわけではなく、単月100時間未満・複数月平均80時間という上限値は超過できません。建設業界にとっては、工期が変動しやすいという理由だけでは、無制限の残業を行うことは許されなくなるという厳しい現実が迫っています。
建設業の生産性向上が不可欠な理由
人手不足を解消する手段として
上述のとおり、建設業界は人手不足が深刻化しています。残業時間の上限規制が導入されれば、今まで以上に1人あたりが稼働できる時間が制限されることになり、単純に労働力を増やすことは難しくなります。そこでカギとなるのが生産性向上です。一人ひとりがより効率的に業務を遂行できれば、同じ作業量をこなしながらも労働時間を短縮し、働き方改革と工期や品質の両立を図れます。
競争力の確保
公共事業の縮減や価格競争が激化する建設業界においては、低コストかつ短工期で品質の高い工事を提供できる企業が生き残ります。ここでもやはり、生産性向上が企業の競争力に直結します。ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、BIM/CIMなどの先進技術を導入することで、効率的な施工計画や品質管理を実現し、スピーディーでミスの少ない工事を行うことが重要です。
生産性向上のための具体的ポイント
IT・デジタル技術の活用
建設業では、未だ紙ベースの書類や手作業による記録が多く残っています。以下のようなIT・デジタル技術を導入することで、大幅な時間短縮やミス削減を実現できます。
- 施工管理ソフト
工程表や品質管理、原価管理などを一元化し、クラウドでリアルタイムに情報を共有する。 - タブレット端末・スマートフォン
現場で写真を撮りながら進捗管理を行い、関係者に即時共有。追加工事やトラブルの際にも素早く対応できる。 - BIM/CIM(Building Information Modeling / Construction Information Modeling)
3Dモデルを活用した設計・施工管理を行い、工事の衝突チェックや工程シミュレーションを容易にする。
オフサイト施工・プレハブ工法の推進
現場での作業時間を削減するために、事前に工場で部材を生産し、現場では組み立てるだけのプレハブ工法を導入する動きが広がっています。オフサイト施工を増やすことで、天候や現場の制約に左右されるリスクを減らし、工期短縮と品質安定を同時に図ることが可能です。
また、建設現場の騒音や安全リスクも軽減されるため、周辺住民とのトラブルを回避しながらスムーズな施工が行えます。
作業工程の可視化と標準化
作業のムリ・ムダ・ムラを減らすには、工程全体を可視化し、各作業の手順を標準化することが重要です。現場ごとに属人的なやり方が根付いていると、どこで効率が悪いのか把握しにくく、改善が進みにくい傾向にあります。
標準化されたマニュアルやチェックリストを整備し、ノウハウの共有を図ることで、経験の浅い作業員や技能実習生でも一定の品質を維持しやすくなります。結果として、教育コストの削減や技能承継の促進にもつながります。
生産性向上に不可欠なコミュニケーション
効率的な工事を実現するためには、関係者間の連絡や情報共有がスムーズに行われる必要があります。設計・施工・発注者・協力会社など、プロジェクトには多くのステークホルダーが関わります。ICTツールやグループウェアを活用して、誰が何を担当しているか、どの工程がいつ終わるかといった情報をリアルタイムで確認できる仕組みを作ると、無駄な待ち時間や手戻りが減少します。
建設業 生産性向上 事例
事例1:大手ゼネコンによるICT活用
ある大手ゼネコンでは、ドローンによる現場測量やAIによる施工データ解析などを積極的に導入。従来は2〜3日かかっていた測量作業が数時間で完了するうえ、精度も向上しました。また、AIを活用した工程予測により、資材の発注タイミングが最適化されるなど、余剰在庫や作業待ち時間を大幅に削減しています。
結果として、現場での残業時間が20%近く減少し、若手技術者の負担軽減や現場の安全性向上につながりました。
事例2:中小企業でも導入可能な施工管理アプリ
中小規模の工務店や建設会社が、クラウド型の施工管理アプリを導入した事例も増えています。社内に専門ITスタッフがいなくても、サブスクリプション型のサービスを利用すれば初期コストを抑えて運用をスタートできます。
このアプリ導入後、工程表の作成や日報の提出、写真共有などをすべてオンラインで行うようになり、紙書類のやり取りが激減。現場にいるスタッフもスマートフォンで必要な情報を即座に取得できるため、コミュニケーションロスが軽減され、休日出勤や残業も徐々に減少しているとの報告がありました。
事例3:プレハブ工法による工期短縮
ある住宅メーカーでは、建物の主要部材を工場生産するプレハブ工法を採用。現場での組み立て時間が大幅に短縮され、屋根や外壁などの工事を短い期間で完了できるようになりました。雨天による工期遅延や野外作業の安全リスクも大きく低減され、結果として残業時間の削減と人件費コストの抑制に成功しました。
品質面でも工場での生産管理が行えるため、ばらつきが少なく、クレーム件数の減少に寄与しています。
働き方改革と生産性向上を両立するポイント
1. 経営者の意識改革
企業全体として働き方改革に取り組むには、まず経営トップの強いリーダーシップと意識改革が欠かせません。残業を削減しても利益を確保できる仕組みづくりや、現場における実行体制の整備が必要です。
2. 現場の主体的な改善活動
実際に作業を行う現場スタッフや職人が、自ら改善点を見つけて提案できる風土を作ることが重要です。トップダウンだけでなく、ボトムアップの意見を取り入れることで、実情に即した効率化施策が生まれやすくなります。
3. 総合的な評価制度
残業時間の削減やコストダウンだけを評価するのではなく、品質や安全管理、チームの協力体制など、総合的な視点で従業員や現場を評価する仕組みを確立することが求められます。働き方改革は短期的な数字だけでなく、中長期的な企業の存続や信頼を支える取り組みです。
4. 外部リソースや助成金活用
国や自治体では、建設業界の働き方改革や生産性向上を支援するための助成金制度を用意している場合があります。ITツール導入や技能者育成などに活用できる施策を調べ、積極的に外部リソースを活用することも一案です。
まとめ
建設業 働き 方 改革は、単に残業を減らすだけではなく、建設業 残業 規制の遵守と建設業 生産 性 向上 事例のように具体的な改善策を取り入れることで、持続的な成長を実現する重要な取り組みとなります。特に2024年問題に象徴されるように、これまでどおりの長時間労働が通用しない時代が到来しつつあります。
生産性を高めるためには、ITやデジタル技術の導入、オフサイト施工、工程の可視化と標準化など、多角的なアプローチが必要です。そこに加えて、現場のコミュニケーション活性化や経営トップの意識改革が重なり合い、初めて真の働き方改革が実現できるでしょう。
人手不足や過酷な労働条件に苦しむ建設業界にとって、働き方改革は避けて通れない課題です。より魅力的な職場環境をつくり、新たな人材を呼び込みながら高品質な施工を維持するためにも、今こそ具体的な行動を起こすタイミングといえるのではないでしょうか。