
クリティカルパスを活用した工程表の作成法:ネットワーク工程表の基礎
公開日:2025.02.21
建設プロジェクトや大規模な生産計画などを進めるにあたり、限られた工期内で作業を効率よく終わらせることは大きな課題です。その際、注目されるのが「クリティカルパス」を組み込んだ「ネットワーク工程表」です。従来から多用されるガントチャートとは異なり、作業同士の依存関係を可視化することで、最も時間がかかる経路(クリティカルパス)を明確にし、プロジェクト全体の最適なスケジュール管理を実現できます。
本記事では、クリティカルパスやネットワーク工程表の基本概念を整理しながら、具体的な作成プロセスと活用ポイントをわかりやすく解説します。

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参考記事:ネットワーク式工程表とは?他の工程表との違いや書き方について解説!
参考記事:ネットワーク工程表とは?ルールや書き方、メリットを解説
クリティカルパスとは
クリティカルパスの定義
「クリティカルパス(Critical Path)」とは、複数の作業工程が連鎖するプロジェクトにおいて、最も長い所要時間を要する作業の経路を指します。この経路上にあるタスクは「1日でも遅れると、プロジェクト全体の完了時期が遅延する」という性質を持つため、スケジュール管理上、最も重視すべき存在といえます。
クリティカルパス上の作業には余裕(フロート)がほとんどなく、逆に言えば、ここで工夫して作業時間を短縮すれば、プロジェクト全体の工期を短縮できる可能性があります。
クリティカルパスを把握するメリット
- 遅延リスクを早期発見
クリティカルパスに含まれるタスクが遅れると、工期全体に直接影響を及ぼすため、注意度が高まります。 - リソースの最適配分
どの工程に優先的に人員や機材を投入すべきかを明確にし、効率的な運用が可能です。 - 意思決定がスピードアップ
トラブル発生時や追加タスクが出たときにも、どこを優先するべきか判断しやすくなります。
ネットワーク工程表の基礎
ネットワーク工程表とは
「ネットワーク工程表」とは、作業の依存関係を矢印やノード(結節点)で示した工程表のことです。ガントチャートが横軸に時間をとり、タスクを棒状に表示するのに対し、ネットワーク工程表は作業と作業のつながりを可視化する点に特徴があります。
代表的な手法として「アローダイアグラム法(ADM)」や「プレシデンスダイアグラム法(PDM)」が挙げられ、いずれもクリティカルパスを抽出しやすい形式をとっています。
アローダイアグラムとプレシデンスダイアグラム
- アローダイアグラム(ADM)
矢印で作業を表し、ノード(丸や四角)で作業の開始・完了を示す方法。矢印の長さでは時間を表さないため、どのタスクがどの順序で実行されるかがわかりやすい一方で、ガントチャートほど視覚的に所要時間を把握しやすいわけではありません。 - プレシデンスダイアグラム(PDM)
各タスクをノード(箱)として表し、矢印で作業の依存関係を示す方法。タスク同士の関係性(開始から開始まで、完了から完了までなど)を詳細に表現しやすく、ソフトウェアでも多く採用されています。
クリティカルパスを含む工程表の作り方
1. タスク(作業)の洗い出し
まずはプロジェクト内の主な作業(タスク)をすべて列挙します。建設現場なら「基礎工事」「型枠工事」「鉄筋工事」「コンクリート打設」「外装工事」「内装工事」など、工程ごとに分解することが一般的です。
- 重複や抜け漏れがないかを確認しながら、タスクをできるだけ具体化します。
- 作業単位が大きすぎると計画が荒くなるため、適切な粒度を意識します。
2. 作業順序と依存関係の整理
各タスクがどの順序で進むか、また、同時並行可能かどうかを明確にします。
- 例:基礎工事が完了しないと、型枠工事は始められない
- 例:電気配線工事と内装下地工事は部分的に同時進行可能
このステップがネットワーク工程表の肝ともいえ、依存関係が多い作業はスケジュールのボトルネックになりやすいです。
3. 各作業の所要時間を見積もる
それぞれのタスクがどれくらいの時間を要するか、なるべく現実的に見積もります。過去の実績や経験、協力会社との打ち合わせなどを通じて、客観的かつ妥当な数字を算出しましょう。
- 「楽観見積もり」「悲観見積もり」「最確実見積もり」など複数のシナリオを設定する手法(PERT)もあります。
4. ネットワーク工程表の作成
洗い出したタスクと依存関係をもとに、アローダイアグラムやプレシデンスダイアグラムを作成します。紙で描く場合は付箋やホワイトボードを使うと便利ですが、専用ソフトウェア(MS Project、Primaveraなど)を活用すれば、自動的にクリティカルパスを表示してくれる機能も利用できます。
- 作業(ノード)に所要時間を記載し、矢印でつなぎます。
- 同時並行作業がある場合は、分岐する形で表現します。
5. クリティカルパスの特定
ネットワーク工程表上で、開始から終了までの経路をすべて洗い出し、最も所要時間が長い経路がクリティカルパスとなります。ソフトウェアなら、赤い矢印や太線でハイライトされることが多いです。
- クリティカルパス上のタスクには余裕がないため、スケジュール短縮策を検討する際は最優先で対処します。
6. フロート(余裕時間)の計算
クリティカルパス上にないタスクには、ある程度の余裕(フロート)が存在します。具体的には**「最早開始時刻」と「最遅開始時刻」**の差として計算でき、もしそのフロートを使いすぎると、クリティカルパスに影響を与える可能性があります。
- フロートをうまく利用すれば、人員の重複や資材搬入スケジュールを調整し、無駄な待ち時間を減らすことが可能です。
工程表 クリティカル パスの実務活用
工期短縮のシミュレーション
クリティカルパス上のタスクを重点的に改善(人員増員、作業順序の最適化など)できれば、工期全体を短縮できる可能性があります。
- 例:鉄筋工が不足しているなら、別の現場から応援を呼ぶ
- 例:作業時間帯をずらして夜間施工に切り替える
ただし、短縮策には追加コストやリスクも伴うため、費用対効果をシミュレートしながら検討します。
リスク管理
クリティカルパスのタスクが天候不順や資材遅延、労務トラブルなどで停止すると、全体工期が即座に遅れる恐れがあります。そこで、リスク管理として以下を行います。
- 代替案の用意(機材の調達先や追加人員の候補リスト)
- 段階的なマイルストーン設定(基礎工事完了、上棟、内装着手など)
- 定期的な進捗確認(クリティカルタスクの進捗を特に重点的にモニタリング)
コミュニケーションの円滑化
ネットワーク工程表による依存関係の可視化は、関係者間の情報共有に大いに役立ちます。設計者、施工管理者、サブコン(下請け業者)など、プロジェクトに関わる全員が「どの作業が先行していないと困るか」を理解しやすくなるため、調整コストが下がります。
- 週次・日次の進捗会議でネットワーク工程表を参照し、各タスクのステータスをアップデートする
- 遅延が起きている部分を瞬時に把握し、担当者を決めて対策を検討する
ソフトウェア選択のポイント
クリティカルパスを取り扱うソフトウェアは多数ありますが、建設業など大規模プロジェクト向けには以下の機能をチェックしましょう。
- ガントチャートとネットワーク図を相互に切り替え可能
- 複数人での同時編集(クラウド対応)
- 進捗報告やリソース管理機能
- レポート出力機能(CSV、PDFなど)
工程表作成で注意すべき点
過剰な細分化
細かく分けすぎると工程表が複雑になり、管理が煩雑になる恐れがあります。適度な粒度でタスクを設定し、現場で把握・更新しやすい範囲に留めましょう。
- タスクの所要時間が1日〜2日程度で済む単位で区切るのが一般的
- 大きすぎる単位だと工程管理が荒くなる
変更管理
プロジェクト途中で設計変更や追加工事が発生することは多々あります。その際、ネットワーク工程表を即座にアップデートし、クリティカルパスやフロートの変化を再計算する必要があります。変更を先送りすると、気づいたときには大幅遅延というリスクが高まります。
余力(バッファ)の設定
完全に理想的なスケジュールを組むと、現実には何らかのトラブルですぐに遅延が発生します。クリティカルパスの終端や重要マイルストーンの前に、一定の時間的バッファを持たせることも、リスクを吸収する手段として有効です。ただし、バッファを過度にとりすぎるとコスト増につながるため、バランスが重要です。
まとめ
クリティカル パス 工程 表は、プロジェクト全体のスケジュールを最適化し、遅延リスクを最小限に抑えるために欠かせない手法です。ネットワーク 工程 表 クリティカル パスの基本を理解しておくと、工程全体を俯瞰でき、最重要タスクに注力できるようになります。
- クリティカルパスの特定により、遅れが許されない作業を把握
- **ネットワーク工程表(アローダイアグラムやPDM)**を活用して依存関係を可視化
- フロート計算で各タスクの余裕時間を把握し、リソース配分を最適化
- 定期的な見直しと変更管理で、実際の進捗に応じて工程表をアップデート
建設業や大規模プロジェクトでは、想定外のトラブルがつきものですが、クリティカルパスをしっかり管理することで、被害を最小限に食い止め、計画どおりの工期完了に近づけることができます。ぜひ本記事のポイントを参考に、自社やプロジェクトのニーズに合った工程管理を実践してみてください。