
実行予算とは?現場管理に役立つ作成手順とコスト削減のポイント
公開日:2025.02.21
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建設工事や大規模なプロジェクトを進めるうえで、工事費用を正確に把握・管理することは非常に重要です。中でも「実行予算」は、工事の採算性やコスト削減施策の成否を左右する大きな要素となります。しかし、「実行予算と見積書の違いがよくわからない」「具体的にどのように作成すればいいのか」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、実行予算とはどのようなものか、現場管理においてどのような役割を果たすのかをわかりやすく解説します。あわせて、実行予算の作成手順やコスト削減のポイントにも触れ、工事をよりスムーズに進められるためのノウハウを提供します。

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参考記事(外部記事):実行予算とは?建設業における目的や実行予算書の作成方法まで解説
参考記事(外部記事):実行予算とは?建設業における役割や内訳、作成方法をわかりやすく解説
実行予算とは
見積書との違い
「実行予算」とは、受注した工事を完遂するにあたって、実際に必要となる費用をより正確に見積もった予算書のことです。受注前の「見積書」は、主に発注者に提示し、工事金額を確定させる目的で作成されます。一方、実行予算はその後の工事の進行や管理に重点を置いた内向きの資料であり、具体的な工事工程や施工条件などを踏まえて、より詳細にコストを検討したものです。
実行予算が重要になる理由
- 採算性の把握
受注金額に対して、実際にどれだけ利益が出るかを判断するための基礎資料となります。 - コスト管理の精度向上
工事に必要な人件費や資材費、下請け業者への支払などを具体的に洗い出すことで、現場での無駄を減らしやすくなります。 - 工程やリソース配分の最適化
どのタイミングでどの資材がどれだけ必要になるのかが明確になるため、人員配置や仕入れ計画の立案がスムーズに行えます。 - トラブルの未然防止
追加工事や設計変更があった際の費用を早期に見積もることで、後々の金銭トラブルを最小限に抑えられます。
実行予算作成の基本フロー
1. 工事内容と条件の再確認
実行予算を作成する前に、契約書や設計図書、仕様書などをもとに、工事の内容・範囲や施工条件を再度確認します。見積書を作成した段階よりも、より具体的な条件(詳細設計の確定、施工環境の変化など)がわかっているため、この段階で追加情報や変更事項をしっかり吸い上げることが重要です。
2. 見積書との比較・調整
見積書に記載された金額と、実行予算で想定されるコストが大きく乖離していないかをチェックします。もし差が大きい場合は、以下のような理由が考えられます。
- 設計変更や仕様変更
- 資材価格の変動
- 見積段階での数量や単価の誤差
- 施工時期の変更による季節要因や人件費高騰
差異の原因を特定し、発注者への報告や下請け業者との交渉などを行い、必要に応じて調整・修正を加えます。
3. 項目ごとの費用配分
実行予算は、単純に「合計いくらか」だけではなく、項目ごとに分解して詳細な費用配分を明確にします。大きく分けると下記のような項目に分割して管理すると良いでしょう。
- 直接工事費
- 材料費
- 労務費
- 下請負費(専門工事)
- 重機・機材の使用料など
- 間接工事費
- 共通仮設費
- 現場管理費(監督、事務所経費など)
- 安全衛生費
- 一般管理費(本社経費など)
特に、直接工事費は工程管理と密接に関連しており、どの工程にどれだけのコストが割り当てられるかを正確に把握することで、施工中の無駄を減らしやすくなります。
4. コスト査定と利益見込みの確定
各項目の費用を合算し、最終的な予算額を確定します。同時に、受注金額との対比を行い、利益見込みがどの程度になるのかを明らかにします。この段階で利益率が低すぎると判断した場合、施工方法の見直しやサプライヤーの再検討など追加の対策を検討する必要があります。
5. チーム内共有と承認
作成した実行予算は、現場監督や施工管理者、経理部門、さらには経営層と共有し、承認を得るプロセスが欠かせません。プロジェクトチーム全員が同じ数字を認識し、「どこに予算が必要で、どこに余裕があるか」を理解していることで、現場での判断やコスト意識が高まります。
実行予算と現場管理の関係
工程管理との連動
現場監督は日々の進捗を確認しながら、予定通りに工事が進んでいるか、資材が足りないかなどを把握しています。しかし、実行予算と連動していないと、仮に工程が遅れた場合に発生する追加人件費や、季節的な資材価格の変動などのコストリスクを見落とす可能性があります。
工程表の更新と合わせて、実行予算の消化状況も定期的にモニタリングすることで、いち早く問題を察知し、対応策を検討することができます。
資材管理と発注スケジュール
実行予算では、材料費や発注先などを詳細に見積もっています。現場管理者がそれを把握していると、どのタイミングで、どの資材を、どれだけ発注すべきかが明確になるため、過剰在庫や欠品を防ぎやすくなります。
また、発注の一括化や同時発注によるスケールメリットを活かすことで、仕入れコストの削減も期待できます。
下請け業者との協力体制
実行予算には下請負費として、協力会社への発注金額が含まれます。工事内容や工程を細かく共有し、コスト面でも合意が取れていると、余計な追加請求や手戻りが起きるリスクを抑えられます。
下請け業者にとっても、実行予算を通じて「いつ」「どの工程」で「どれだけの予算」が割り当てられているかを理解できるため、協力体制がスムーズになるでしょう。
コスト削減のポイント
1. 原価管理を徹底する
実行予算を作成しても、実際のコストが管理されないままでは意味がありません。現場レベルでの「出面(でめん)管理」や「材料費管理」をリアルタイムに追跡し、予定との差異を逐一確認しましょう。
- 出面管理:作業員や職人が、実際に何名・何時間働いたかを正確に把握
- 資材管理:材料の使用量や廃材の量を記録し、無駄なロスを分析
2. 仕入れ方法の見直し
資材や機材を都度発注するよりも、必要な分をまとめて購入すれば単価を抑えられる場合があります。反対に、保管コストや盗難リスクが高い場合は、こまめに発注するほうが結果的に安く済むケースもあります。
工事規模や施工環境に合わせて、最もコストメリットが高い仕入れ方法を検討することが大切です。
3. 工程短縮による費用削減
工期が長引くほど、人件費や仮設設備費が増加する傾向にあります。可能な範囲で工程を短縮し、工事期間を詰めることで、仮設事務所や足場のリース費用などを削減できる場合があります。
ただし、無理な工程短縮は品質や安全を損なうリスクがあるため、クリティカルパスを見極めながら、計画的に進めましょう。
4. 代替材料・施工方法の検討
当初の設計や仕様に固執せず、同等性能の代替材料や、より効率的な施工方法がないかを検討することもコスト削減には有効です。
- 例:内装材のグレードを変更しても仕上がりへの影響が少なければ、大幅な費用削減になる
- 例:ICT施工(ドローンやBIM/CIMの導入)で測量や施工精度を高め、人件費を抑える
実行予算を活かした現場管理の事例
A社:大規模マンション建設
大手ゼネコンA社では、大規模マンションの新築工事において、早い段階で詳細な実行予算を作成。材料費の変動リスクを考慮し、鉄骨やコンクリートなどの主要資材を一括発注する戦略を採用しました。結果として、単価交渉が有利に進み、予算内で余裕を持った資材手配が可能となりました。さらに、工期短縮により仮設事務所費を抑制し、最終的なコストダウンに成功しています。
B社:戸建てリフォーム工事
戸建てリフォーム専門のB社では、受注決定後に必ず現場監督や職人を集め、実行予算をベースにした「施工計画ミーティング」を実施。職人からの意見を反映させる形で施工手順や資材の再検討を行った結果、追加工事が発生しても迅速にコスト対応ができ、施主とのトラブルを未然に防ぎました。客先満足度の向上にもつながり、次回リフォーム案件の受注にも好影響を与えています。
まとめ
工事の成功は、単に「見積額どおりのコストで収まる」ことだけでなく、予定外のコスト増を抑えつつ、品質と安全を確保したうえで利益を確保することが求められます。ここで大きな役割を果たすのが、実行 予算です。
- 実行 予算 と は、工事の進行状況や詳細設計、施工条件などを踏まえて、実際に必要な費用を再精査し、管理するための予算書
- 適切なフローで作成することで、現場 管理の精度が向上し、資材・人材・工程の最適化がしやすくなる
- コスト削減には、原価管理の徹底、仕入れ方法の工夫、工程短縮、代替材料・施工方法の検討などが有効
今後、建設業界は人手不足や資材価格の高騰といった課題が続くと予想されています。そのため、実行予算の活用によってコスト意識を全員で共有し、無理なく効率的な施工を行うことがますます重要となるでしょう。ぜひ本記事で紹介したポイントを参考に、実行予算と現場管理を連動させ、持続的な収益力と品質向上を目指してください。