「クリティカルパスを活用した工程表を作りたいけど、何から始めればいいかわからない」「ネットワーク工程表とガントチャートの違いがわからない」「クリティカルパスの考え方を現場でどう活かせばいいの?」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、クリティカルパスを活用した工程表の作り方を、基礎から応用まで徹底解説します。ネットワーク工程表の基礎知識、クリティカルパスの考え方、建設現場での活用事例まで紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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クリティカルパスとは?基本概念を理解する
まず、クリティカルパスの基本概念を押さえましょう。
クリティカルパスの定義
クリティカルパス(Critical Path)とは、プロジェクトの開始から完了までの全工程の中で、最も時間がかかる最長の経路のことです。
簡単に言うと、「この経路上の作業が遅れたら、プロジェクト全体が遅れる」という最重要経路です。クリティカルパス上の作業には余裕(フロート)がなく、1日の遅れがそのまま全体の遅れにつながります。
なぜクリティカルパスが重要なのか
建築現場では多くの人員が作業に関わり、複数の工程が同時並行で進みます。計画通りに作業ができているか、遅れている場合はどこが遅れてどうすれば取り戻せるか——知っておくべき情報は少なくありません。
クリティカルパスを把握することで、以下のことが可能になります。
- 優先すべき作業が明確になる:どの作業を重点管理すべきかがわかる
- リソースを最適配分できる:人員・機材を効果的に投入できる
- 遅延リスクを早期発見できる:問題が起きる前に対策を打てる
- 工期短縮の糸口が見つかる:どこを短縮すれば効果的かがわかる
クリティカルパス法(CPM)とは
クリティカルパス法(Critical Path Method, CPM)とは、クリティカルパスを特定し、プロジェクト管理に活用する手法のことです。1950年代後半にアメリカで開発され、現在では建設・製造・ITなど幅広い分野で標準的な手法として使われています。
この手法を用いることで、プロジェクト完了のために実行しなければならない重要なタスクを特定し、最短でプロジェクトを完了させるための最適な経路を導き出せます。
工程表の種類とクリティカルパスの関係
工程表にはいくつかの種類があり、それぞれクリティカルパスとの相性が異なります。
ネットワーク工程表
ネットワーク工程表は、クリティカルパスの把握に最も適した工程表です。
作業を矢線(→)で、作業の開始・終了点を丸印(○)で表現し、作業間の依存関係を視覚的に示します。「A作業が終わらないとB作業に着手できない」といった制約条件が明確になるため、クリティカルパスの特定が容易です。
特徴:
- 作業の依存関係が明確に表現できる
- クリティカルパスの特定・計算が可能
- フロート(余裕時間)の計算ができる
- 作成には専門知識が必要
バーチャート工程表
バーチャート工程表は、建設現場で最も一般的に使われている工程表です。縦軸に作業項目、横軸に日付を記入し、横棒(バー)で作業期間を表現します。
クリティカルパスとの関係:
バーチャートは「どの作業がどのくらいの日数を必要とするか」はわかりますが、作業間の依存関係が表現しにくいため、クリティカルパスの把握には不向きです。単純にバーが並んでいるだけでは、どの作業が遅れると全体に影響するかがわかりません。
ガントチャート工程表
ガントチャートは、横軸の棒グラフで進捗状況を把握してタスクを管理する表です。バーチャートと似ていますが、進捗率を視覚的に表現できる点が特徴です。
クリティカルパスとの関係:
ガントチャートでは各タスクに必要なリソースの量を表現できますが、作業間の依存関係を示す機能が限定的です。近年のプロジェクト管理ツールでは、ガントチャートに依存関係の矢印を追加し、クリティカルパスを自動表示できるものもあります。
PERT図
PERT図(Program Evaluation and Review Technique)は、クリティカルパスを視覚化するための図です。作業タスクを丸や四角で囲み、それぞれを線で結ぶことで、作業の流れや関係性を図式化します。
ネットワーク工程表の一種であり、クリティカルパスの特定に最も適した形式です。
クリティカルパスを活用した工程表の作成手順

実際にクリティカルパスを活用した工程表を作成する手順を、6つのステップで解説します。
ステップ1:作業(タスク)の洗い出し
まず、プロジェクトに必要なすべての作業を洗い出します。
大きな作業単位から細かい作業まで、プロジェクト完了に必要なすべてのステップを網羅することが重要です。このとき、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)を活用すると、ツリー状に整理でき、タスクの漏れを防げます。
建設現場での例:
- 仮設工事(足場設置、仮囲い設置など)
- 基礎工事(掘削、配筋、コンクリート打設など)
- 躯体工事(鉄骨建方、床工事など)
- 設備工事(電気、給排水、空調など)
- 仕上げ工事(内装、外装など)
ポイント:タスクの粒度は「1日〜1週間程度で完了する単位」が目安です。大きすぎると管理が荒くなり、小さすぎると工程表が煩雑になります。
ステップ2:作業の依存関係を整理
次に、各作業の依存関係(前後関係)を整理します。
WBSで整理した作業を、1つひとつ順を追って確認し、以下の点を明確にします。
- どの作業が終わらないと次に進めないか(先行作業)
- どの作業は同時並行で進められるか(並行作業)
- どの作業が独立しているか
例:
- 基礎工事が完了しないと躯体工事に着手できない
- 電気工事と給排水工事は並行して進められる
- 外構工事は建物本体工事とある程度独立している
ステップ3:各作業の所要日数を見積もる
各作業に必要な日数を見積もります。
過去の実績や経験をもとに、現実的な所要日数を設定しましょう。楽観的すぎる見積もりは避け、天候不良や資材遅延などのリスクも考慮してある程度の余裕を持たせることが重要です。
ステップ4:ネットワーク図(PERT図)を作成
ここまでの情報をもとに、ネットワーク図を作成します。
作成のルール:
- 作業を矢線(→)で、開始・終了点を丸印(○)で表す
- 作業名は矢線の上に、所要日数は矢線の下に記入
- 矢線は左から右、上から下へ進行方向に向ける
- イベント番号は作業が進むほど大きくする
- 依存関係のみを示す場合は点線(ダミー)を使用
ステップ5:クリティカルパスを計算・特定
ネットワーク図が完成したら、クリティカルパスを計算・特定します。
計算方法(簡易版):
- 開始点から終了点までの経路をすべて洗い出す
- 各経路に含まれる作業の日数を合計する
- 最も日数が大きい経路がクリティカルパス
計算方法(詳細版):
- 前進計算(フォワードパス):各イベントの最早開始時刻を計算
- 後退計算(バックワードパス):各イベントの最遅完了時刻を計算
- フロート(余裕時間)を計算:最遅完了時刻 − 最早開始時刻 − 所要日数
- フロートが0の作業をつないだ経路がクリティカルパス
ステップ6:工程表を完成・共有
最後に、工程表を完成させ、関係者と共有します。
- クリティカルパスを赤色などで強調表示
- フロートがある作業も余裕日数を明記
- マイルストーン(重要な節目)を設定
- 関係者全員に共有し、クリティカルパスの重要性を説明
クリティカルパス活用の5つのメリット
クリティカルパスを活用した工程表には、以下のメリットがあります。
メリット①:優先すべき作業が明確になる
クリティカルパスを把握することで、どの作業を最優先で管理すべきかが明確になります。
どんなプロジェクトにも「これが遅延するとプロジェクト全体に影響を与える」という重要なタスクがあります。それがどれかわかっていれば、リソースを適切に配分し、重要な作業を優先的に進めることができます。
メリット②:遅延リスクを事前に予測できる
クリティカルパスを把握することで、遅延原因となりうるタスクを事前に予測できます。
工数のかかるタスクや依存関係が可視化されるため、リスクの高い作業には事前に熟練者を配置したり、フォロー体制を整えたりといった対策が可能です。
メリット③:リカバリー手段を検討しやすい
万が一タスクに遅延が発生しても、冷静にリカバリー手段を検討できます。
クリティカルパス上の作業が遅れた場合と、フロートがある作業が遅れた場合では対応が異なります。クリティカルパスを把握していれば、どの遅延に優先対応すべきかの判断ができます。
メリット④:リソースの最適配分が可能
クリティカルパスを活用することで、限られたリソースを有効活用できます。
クリティカルパス外の作業でリソースに余裕がある場合は、クリティカルパス上の作業に振り分けることができます。人員や機材の需要が高い期間を特定し、手持ちのリソースを集中投入することも可能です。
メリット⑤:チームの意識統一につながる
クリティカルパスを理解していると、プロジェクトの重要な要素をチームメンバーや関係者に明確に伝えることができます。
特に複数の業者が関与する建設現場では、全員が同じ認識を持って進行できるため、問題発生時にも迅速な対応が可能になります。
クリティカルパス活用の注意点
クリティカルパスを活用する際には、いくつかの注意点があります。
注意点①:クリティカルパスは変化する
プロジェクト途中で設計変更や追加工事が発生することは多々あります。その際、ネットワーク工程表を即座にアップデートし、クリティカルパスやフロートの変化を再計算する必要があります。
変更を先送りすると、気づいたときには大幅遅延というリスクが高まります。定期的な見直しと更新が欠かせません。
注意点②:複数のクリティカルパスが存在する場合がある
クリティカルパスは必ずしも1本に収束するとは限りません。短い工期にタスクを詰め込むと、クリティカルパスが複数存在することもあります。
この場合、複数のクリティカルパス上に存在するタスクのどれか1つでも遅れると、全体の工期が延長されることになります。
注意点③:フロートが少ない作業にも注意
クリティカルパス上になくても、フロートが非常に少ない作業は準クリティカルとして注意が必要です。
フロートを使い切ってしまうと、その作業もクリティカルパスに変わる可能性があります。フロートの少ない作業は、クリティカルパスに準じた重点管理が求められます。
注意点④:柔軟性には限界がある
クリティカルパスは全ての工程において所要時間を決定し、工程表を組んでいるため、柔軟な対応がやや難しい面があります。
また、遅延が生じた際にプロジェクト全体にかかるストレスが大きくなることもデメリットです。定期的な見直しで、現実に合った計画に調整していく姿勢が重要です。
建設現場での活用事例
クリティカルパスを活用した工程管理の具体的な活用事例を紹介します。
事例①:複数工程の同時進行(コンカレント・エンジニアリング)
クリティカルパスを軸に工程表を組むと、並行して進められる工程も見えてきます。
たとえば、設計が確定している部分から先に解体工事を開始したり、1階の躯体工事と地下の設備工事を同時に進めたりすることで、工期短縮やコスト削減を図ることができます。
ただし、工程を前倒しするリスクもあるため、発注者への説明と判断を仰ぐことが必須です。
事例②:行政許認可のリードタイム管理
建築確認申請や開発許可など、行政の許認可業務は時間がかかり、自社の努力では短縮が難しい作業です。
これらの作業はクリティカルパスに含まれやすいため、早めに申請を行い、許認可待ちの間に並行して進められる作業を特定しておくことが重要です。
事例③:資材調達のボトルネック解消
特注品や納期の長い資材は、調達がクリティカルパスになることがあります。
クリティカルパスを把握していれば、早期発注の必要性が明確になり、代替品の検討や複数の調達先の確保といった対策を事前に講じることができます。
事例④:関係者間の情報共有
クリティカルパスを明快な図で作成し、関係者全員に共有することで、スケジュール意識を強く持ってもらうことができます。
元請け、下請け、協力会社、施主など、プロジェクトに関わる全員が「どの作業が遅れると困るか」を理解しやすくなり、調整コストが下がります。
クリティカルパス管理に役立つツール
クリティカルパスを活用した工程表の作成・管理には、以下のようなツールが役立ちます。
エクセル
エクセルでもクリティカルパスを含む工程表は作成できますが、作業間の依存関係を表現したり、クリティカルパスを自動計算したりするには、それなりの知識とスキルが必要です。
メリット:導入コストなし、自由にカスタマイズ可能
デメリット:リアルタイム共有が難しい、手動計算が必要
専用のプロジェクト管理ソフト
Microsoft Project、Smartsheet、Asanaなどの専用ソフトは、クリティカルパスの自動計算・表示機能を備えています。
メリット:クリティカルパスの自動計算、ガントチャートとネットワーク図の切り替え
デメリット:導入コスト、操作習得が必要
施工管理アプリ
建設業に特化した施工管理アプリは、現場での使いやすさとリアルタイム共有に優れています。
メリット:スマホ・タブレットで現場から更新可能、関係者とリアルタイム共有
デメリット:月額費用が発生
まとめ
クリティカルパスを活用した工程表は、プロジェクト管理の質を格段に向上させる強力なツールです。
本記事のポイント:
- クリティカルパスとは、プロジェクトの最長経路であり、工期を決定する最重要経路
- ネットワーク工程表(PERT図)がクリティカルパスの把握に最適
- 作成は「タスク洗い出し→依存関係整理→所要日数見積もり→ネットワーク図作成→クリティカルパス計算→共有」の6ステップ
- 優先作業の明確化、遅延リスクの事前予測、リソースの最適配分などのメリットがある
- クリティカルパスは変化するため、定期的な見直しが必要
クリティカルパスを正しく理解し、工程表に組み込むことで、計画通りのプロジェクト進行が実現できます。
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