061_積算と見積りの_違いとは

積算と見積りの違いとは?計算方法・書き方・積算基準を解説

「積算と見積りって何が違うの?」「積算の計算方法がわからない」「見積書の書き方と積算書の書き方はどう違う?」とお悩みの建設業の方も多いのではないでしょうか。

積算と見積りの違いとは?計算方法・書き方・積算基準を解説

積算と見積りは混同されやすい言葉ですが、実はそれぞれ異なる目的と役割を持っています。この違いを正しく理解することは、適正な工事価格の設定や利益確保に欠かせません。

本記事では、積算と見積りの違いをわかりやすく解説します。それぞれの計算方法や書き方の違い、積算基準についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

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積算とは?

まず、積算の基本を押さえましょう。

積算の定義

積算とは、建設工事にかかる全ての費用を積み上げて算出する業務のことです。

設計図書や仕様書をもとに、必要な材料の種類と数量、作業員の人数と日数などを拾い出し、それぞれの単価を掛け合わせて工事全体の費用(工事原価)を求めます。

わかりやすく言えば、「どの作業にいくらかかるか」を細かく書き出して合計する作業です。

積算で算出する費用の構成

積算で算出する工事費用は、以下のように構成されます。

工事費用(積算額)
├── 直接工事費
│   ├── 材料費(資材の仕入れ費用)
│   ├── 労務費(作業員の人件費)
│   └── 直接経費(水道光熱費、機械使用料など)
└── 間接工事費
    ├── 共通仮設費(仮設事務所、足場など)
    └── 現場管理費(現場運営にかかる費用)

重要なポイント:積算で算出する金額には、企業の利益は含まれていません。

なぜ積算が必要なのか

建設業で積算が必要な理由は主に2つあります。

理由1:工事にかかる費用は現場ごとに異なるため

建設工事は、全く同じ施工条件の工事が存在しません。現場によって土地の状態、使う資材の種類、工法、気候条件などが異なるため、同じような建物を建てる場合でも工事費用は変わります。

理由2:工事原価を正確に把握し利益を確保するため

工事原価が曖昧なまま見積を提示・受注してしまうと、予想以上に費用がかかり、赤字になるリスクがあります。積算により正確な工事原価を把握することで、適正な利益を確保できます。

見積りとは?

次に、見積りの基本を確認しましょう。

見積りの定義

見積りとは、積算で算出した工事原価に、企業の利益や一般管理費を加えて、発注者に提示する金額を算出する作業のことです。

発注者が目にするのは、この見積額が記載された「見積書」です。発注者は見積書の金額を見て、工事を依頼するかどうかを判断します。

見積りで算出する金額の構成

見積りで算出する金額は、以下のように構成されます。

見積額
├── 積算額(工事原価)
│   ├── 直接工事費
│   └── 間接工事費
├── 一般管理費(本社・支社の運営費)
└── 利益(企業の粗利益)

重要なポイント:見積りで算出する金額には、企業の利益が含まれています。

なぜ見積りが必要なのか

見積りが必要な理由は主に2つあります。

理由1:発注者に支払い額を提示して受注を得るため

発注者は見積書を見て、予算内に収まるか、他社と比較してどうかを判断します。見積書がなければ、発注者は工事を依頼する判断ができません。

理由2:企業の利益を確保するため

積算額のまま契約すると、企業にとっては無利益での受注になります。企業が存続・成長するためには、適正な利益を上乗せした見積りが必要です。

積算と見積りの違い【比較表】

積算と見積りの違いを比較表で整理します。

項目積算見積り
定義工事にかかる全ての費用を算出すること積算額に利益を加えた金額を算出すること
算出する金額工事原価(仕入れ原価)発注者への提示価格(販売価格)
利益の有無含まない含む
目的正確な工事原価を把握する受注を獲得し、利益を確保する
対象者社内向け(原価管理用)発注者向け(契約用)
作業の順序先に行う積算の後に行う
作成書類積算書、内訳明細書見積書

積算と見積りの関係式

積算と見積りの関係は、以下の計算式で表せます。

見積額 = 積算額(工事原価) + 一般管理費 + 利益額

つまり、積算は「仕入れ原価」、見積りは「販売価格」という関係性になります。

積算が正しくできていなければ、見積りも正しく出せません。そのため、積算は見積りの前提となる重要な作業といえます。

積算の計算方法と流れ

積算業務の具体的な流れと計算方法を解説します。

積算の計算方法と流れ

ステップ1:人工(にんく)を求める

人工とは、1人の職人が1日(8時間)で行う仕事量のことです。

積算業務では、作業ごとの手間を数値化した「歩掛(ぶがかり)」を基に人工を割り出し、その単価を積み上げて最終的な人件費(労務費)を算出します。

【計算例】

作業量:100m²の塗装工事
歩掛:0.05人工/m²(1m²あたり0.05人工かかる)
労務単価:20,000円/人工

人工 = 100m² × 0.05人工/m² = 5人工
労務費 = 5人工 × 20,000円 = 100,000円

※歩掛は国土交通省が公表する「公共建築工事標準単価積算基準」などを参考にします。

ステップ2:材料の数量を求める

設計図面から必要な資材の種類とその数量を拾い出し、費用を積み上げます。

この作業を「拾い出し」といい、複数ある図面を正しく読み取るスキルが必要になります。

【計算例】

必要材料:外壁塗料 20缶
単価:15,000円/缶
ロス率:5%(余分に必要な量)

材料費 = 20缶 × 15,000円 × 1.05 = 315,000円

ステップ3:工事原価を算出する

人件費と材料費を基に、直接工事費を算出します。さらに、共通仮設費や現場管理費などの間接工事費を加えて、工事原価を求めます。

【計算例】

直接工事費
├── 材料費:3,000,000円
├── 労務費:2,000,000円
└── 直接経費:500,000円
    小計:5,500,000円

間接工事費
├── 共通仮設費:300,000円
└── 現場管理費:400,000円
    小計:700,000円

工事原価(積算額)= 5,500,000円 + 700,000円 = 6,200,000円

ステップ4:各種書類を作成する

積算結果に基づき、内訳書や明細書、仕訳表などの書類を作成します。

見積りの計算方法と流れ

見積りの具体的な計算方法を解説します。

ステップ1:積算額を確認する

まず、積算で算出した工事原価を確認します。

ステップ2:一般管理費を算出する

一般管理費とは、本社・支社の運営費など、工事に直接関係しない企業経営に必要な費用です。

一般管理費の例:

  • 本社・支社の家賃、光熱費
  • 事務職員の給与
  • 広告宣伝費
  • 通信費
  • 固定資産税など

一般的に、工事原価に対して一定の比率(5〜15%程度)で計算することが多いです。

ステップ3:利益を設定する

企業が確保したい利益額を設定します。利益率は、工事の規模や競合状況、自社の経営方針などによって決定します。

ステップ4:見積額を算出する

【計算例】

積算額(工事原価):6,200,000円
一般管理費(10%):620,000円
利益(8%):496,000円

見積額 = 6,200,000円 + 620,000円 + 496,000円 = 7,316,000円

ステップ5:見積書を作成する

算出した見積額を、発注者にわかりやすい形式の見積書にまとめます。

積算書と見積書の書き方の違い

積算書と見積書では、記載する内容や目的が異なります。

積算書(内訳明細書)の書き方

積算書は、工事原価の詳細を記載した社内向けの書類です。

積算書に記載する主な項目:

  • 工事名・工事場所
  • 工種ごとの内訳(材料費・労務費・経費)
  • 各項目の数量・単位・単価・金額
  • 直接工事費の合計
  • 間接工事費の内訳と合計
  • 工事原価の総計

【積算書の記載例】

工種名称数量単位単価金額
直接工事費
塗装工事外壁塗装(シリコン塗料)1503,500525,000
軒天塗装302,80084,000
付帯部塗装1120,000120,000
直接工事費 計729,000
間接工事費
共通仮設費足場設置・解体1180,000180,000
現場管理費現場管理費150,00050,000
間接工事費 計230,000
工事原価 合計959,000

見積書の書き方

見積書は、発注者に提示する書類です。発注者が理解しやすいように、簡潔かつ明確に記載します。

見積書に記載する主な項目:

  • タイトル(御見積書)
  • 宛名(発注者名)
  • 見積金額(合計金額)
  • 工事名・工事場所
  • 工事内容の内訳
  • 工期・有効期限
  • 支払条件
  • 作成会社名・担当者名

【見積書の記載例】

名称数量単位金額
外壁塗装工事150630,000
軒天塗装工事30100,000
付帯部塗装工事1145,000
足場設置・解体費1215,000
諸経費1110,000
小計1,200,000
消費税(10%)120,000
合計金額1,320,000

積算書と見積書の違いまとめ

項目積算書見積書
目的工事原価の把握・管理発注者への価格提示・受注獲得
対象社内向け発注者向け
記載金額工事原価(利益なし)見積額(利益込み)
詳細度非常に詳細(単価・数量まで)適度に詳細(わかりやすさ重視)
構成内訳書・明細書・仕訳表表紙・内訳書・条件書

積算基準とは?

積算を行う際の基準となる「積算基準」について解説します。

積算基準の定義

積算基準とは、工事費に記載する項目の定義や算定方法を定めたものです。

積算の方法自体には法律で定められたルールはありませんが、公共工事では予算の根拠となるため、公平性を保つために積算基準が設けられています。

主な積算基準の種類

建設業で使用される主な積算基準は以下の通りです。

積算基準名監修・発行内容
公共建築工事積算基準国土交通省大臣官房官庁営繕部工事費の積算に関する基本的な考え方
公共建築工事共通費積算基準国土交通省大臣官房官庁営繕部共通仮設費・現場管理費・一般管理費等の算定方法
公共建築工事標準単価積算基準国土交通省大臣官房官庁営繕部標準的な歩掛り(人工数)の基準
公共建築数量積算基準国土交通省大臣官房官庁営繕部数量の計測・計算方法
公共住宅建築工事積算基準公共住宅事業者等連絡協議会公共住宅建設工事の積算に関する基準

これらの基準は、国土交通省のホームページで公開されており、無料で閲覧できます。

積算に使用する単価の種類

積算で使用する単価には、以下のような種類があります。

単価の種類内容情報源
市場単価市場で取引されている実勢価格建築コスト情報、建築施工単価など
複合単価材料費・労務費・経費を合算した単価各社の積算基準
刊行物価格定期刊行物に掲載されている価格建設物価、積算資料など
参考見積価格専門工事業者からの見積価格協力業者からの見積書

労務単価について

公共工事の積算では、国土交通省が毎年公表する「公共工事設計労務単価」を使用します。これは、建設業で働く技能労働者の賃金実態を調査し、職種別・地域別に設定された単価です。

参考:国土交通省「令和7年度 公共工事設計労務単価

民間工事では、この労務単価を参考にしながら、市場の動向を踏まえて労務費を設定することが一般的です。

積算と見積りを正確に行うポイント

積算と見積りを正確に行うためのポイントを解説します。

ポイント1:設計図書を正確に読み取る

積算の基本は、設計図書や仕様書から必要な情報を正確に読み取ることです。図面の読み取りミスは、積算額の誤差に直結します。複数の図面を照らし合わせながら、漏れなく拾い出しを行いましょう。

ポイント2:最新の単価情報を使用する

材料費や労務費は市場の状況により変動します。古い単価情報を使用すると、実際の費用との乖離が生じてしまいます。定期刊行物や最新の市場情報を参考に、適正な単価を使用しましょう。

ポイント3:ロス率を考慮する

材料は、使用する分だけでなく、切断ロスや端材、予備などを考慮する必要があります。適切なロス率を設定しないと、材料費が過少に算出されてしまいます。

ポイント4:現場条件を反映する

同じ工事内容でも、現場の条件によって費用は変わります。搬入経路、作業スペース、近隣環境、気象条件などを考慮して積算を行いましょう。

ポイント5:積算見積ソフトを活用する

積算・見積り業務は複雑で、手作業ではミスが発生しやすくなります。専用の積算見積ソフトを活用することで、計算ミスを防ぎ、業務効率を大幅に向上できます。

まとめ

積算と見積りの違いについて、計算方法や書き方、積算基準まで解説しました。

本記事のポイント:

  • 積算:工事にかかる全ての費用を算出する作業(利益を含まない)
  • 見積り:積算額に利益を加えた金額を算出する作業(利益を含む)
  • 関係式:見積額 = 積算額 + 一般管理費 + 利益
  • 積算は「仕入れ原価」、見積りは「販売価格」に相当する
  • 積算を先に行い、その後で見積りを行う
  • 積算基準には国土交通省の公共建築工事積算基準などがある

積算と見積りは、建設業の利益確保に欠かせない重要な業務です。正確な積算があってこそ、適正な見積りが可能になります。本記事を参考に、積算・見積り業務の精度向上を目指しましょう。

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