建設SaaSとは？基本から解説
「建設SaaS」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。近年、建設業界でもデジタル化が進み、業務効率化のためにSaaSを導入する企業が増えています。
しかし、「SaaSとは何か」「自社にどんなメリットがあるのか」「どのように選べばいいのか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、建設SaaSの概要から導入メリット、選ぶポイントまでわかりやすく解説します。建設業でSaaSの導入を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
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建設SaaSの概要
SaaS（サース）とは
SaaS（Software as a Service）とは、インターネット経由で提供されるクラウドベースのソフトウェアサービスです。
従来のソフトウェアは、パッケージを購入して自社のパソコンやサーバーにインストールする「買い切り型」が一般的でした。一方、SaaSはインターネットに接続するだけで、ベンダー（提供会社）が用意したソフトウェアを利用できます。
SaaSの主な特徴は以下の通りです。
- インターネット環境があれば、どこからでもアクセス可能
- 複数人で同時にシステムの管理・編集ができる
- データはクラウド上に保管され、自動バックアップされる
- ソフトウェアのアップデートは自動で行われる
- 月額または年額の料金制で、初期費用を抑えられる
建設SaaSとは
建設SaaSとは、建設業界の特有なニーズに応えるために開発されたクラウドベースのソフトウェアシステムです。
従来の建設業務では、紙ベースの管理や複雑な現場調整が一般的でした。しかし、建設SaaSの導入により、そういった課題を効率的に解決できるようになりました。
建設SaaSは、工事管理システム・施工管理システム・図面管理システム・案件管理アプリなど、建設業界に特化したアプリケーション群を提供します。これにより、設計から施工、メンテナンスに至るまでのプロセスが効率化され、コスト削減や時間節約、コミュニケーションの改善に貢献しています。
バーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの違い
SaaSには、大きく分けてバーティカルSaaSとホリゾンタルSaaSの2種類があります。
| 種類 | 特徴 | 具体例 |
|---|---|---|
| バーティカルSaaS | 特定の業種・業界に特化したSaaS | 建設SaaS、医療SaaS、不動産SaaS |
| ホリゾンタルSaaS | 業界・業種に関わらず使用できるSaaS | 会計ソフト、人事システム、チャットツール |
建設SaaSはバーティカルSaaSに分類されます。建設業界特有の課題（図面管理、工程管理、現場写真の管理など）を解決するために設計されているため、一般的なビジネスツールよりも現場のニーズに即した機能を備えています。
オンプレミスとの違い
建設SaaSを理解するために、従来のオンプレミス型システムとの違いを確認しておきましょう。
オンプレミスとは、自社でサーバーを保有し、ソフトウェアを運用する従来型のシステムです。
| 比較項目 | 建設SaaS（クラウド型） | オンプレミス型 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 低い（サーバー不要） | 高い（サーバー購入・構築が必要） |
| 導入期間 | 短い（即日〜数週間） | 長い（数ヶ月〜1年） |
| 運用・保守 | ベンダーが対応 | 自社で対応 |
| アップデート | 自動 | 手動（追加費用が発生する場合も） |
| アクセス方法 | インターネット経由（どこからでも） | 社内ネットワーク内のみ |
| カスタマイズ性 | サービスによって異なる | 高い |
建設SaaSはクラウドベースのため、低コストで迅速な導入が可能であり、現場のニーズに柔軟に対応できる点が大きな特徴です。
建設業界で建設SaaSが求められる理由
建設業界では、なぜ建設SaaSの導入が進んでいるのでしょうか。その背景には、建設業界が直面する3つの課題があります。
課題①：人手不足・少子高齢化
建設業界では、慢性的な人手不足が深刻化しています。特に29歳以下の人材が少なく、55歳以上の人材が多い状況が続いています。
建設業は「3K（きつい・汚い・危険）」というイメージが定着しており、若年層の応募が伸び悩んでいます。高齢の労働者が退職すれば、さらに人員不足が深刻化する恐れがあります。
建設SaaSを導入して業務を効率化し、働き方を改善することで、業界全体のイメージアップや若手人材の確保につなげることが期待されています。
課題②：技術・ノウハウの属人化
建設業界では、長年にわたり技術やノウハウが特定の個人に依存する傾向がありました。熟練工の退職に伴う技術の喪失、若手への効果的な技術伝達の難しさが大きな問題となっています。
建設SaaSを導入すると、作業手順や確認事項、注意点などをシステム上で可視化・共有することが可能です。ベテラン職人の技術やノウハウをデジタルデータ化して蓄積できるため、若手への効率的な技術継承が実現できます。
課題③：長時間労働・2024年問題
建設業界では、慢性的な長時間労働が課題となっています。建設の業務は、現場作業だけでなくデスクワークも混在しており、勤務時間が長くなる傾向にあります。
2024年4月からは、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました（いわゆる「2024年問題」）。原則として月45時間・年360時間以内に収める必要があり、働き方改革が急務となっています。
建設SaaSを活用すれば、現場作業とデスクワークの混在や紙の書類のやり取りといった非効率な業務を改善し、労働時間の削減につなげられます。
建設SaaSの主要機能
建設SaaSには、建設業務を効率化するためのさまざまな機能が搭載されています。代表的な機能を紹介します。
プロジェクト管理機能
プロジェクト管理機能では、工事ごとの進捗状況や情報を一元管理できます。具体的には、以下のような機能が含まれます。
- 案件管理：工事ごとの契約情報、進捗状況、関係者を管理
- 予算管理：工事ごとの予算と実績を比較・分析
- タスク管理：作業の割り当てと進捗確認
- リソース配分：作業員や資材の適切な配分
工事全体を見える化し、工期の短縮やコスト削減につなげられます。
施工管理機能
施工管理機能は、現場での作業を効率化するための機能です。具体的には、以下のような機能が含まれます。
- 工程表の作成・管理：作業スケジュールをリアルタイムで可視化
- 図面・資料共有：設計図や施工図をクラウドで共有
- 写真管理：現場写真を自動整理・保存
- 検査記録：検査結果の記録と共有
- 日報・報告書作成：現場からの報告を効率化
クラウドベースのため、関係者とリアルタイムで情報共有でき、更新された情報も即座に反映されます。
勤怠・労務管理機能
勤怠・労務管理機能では、作業員の入退場や勤務時間を管理できます。
- 入退場管理：現場への入退場をリアルタイムで記録
- 勤怠管理：勤務時間の記録と集計
- 安全管理：KY活動（危険予知活動）の記録
2024年問題への対応として、労働時間の適切な管理が求められる中、勤怠管理機能の重要性が高まっています。
コミュニケーション機能
コミュニケーション機能では、社内外の関係者との連絡をスムーズにします。
- チャット機能：案件ごとにメッセージをやり取り
- 通知機能：スケジュール変更や重要事項を自動通知
- LINE連携：普段使いのLINEで情報を受け取れる
電話やメールによる連絡の手間を削減し、「聞いていなかった」「伝えられていなかった」というコミュニケーションエラーを防止できます。
見積もり・発注・請求機能
見積もり・発注・請求機能では、経理業務を効率化できます。
- 見積書作成：テンプレートを活用して迅速に作成
- 発注管理：協力会社への発注をシステム上で管理
- 請求書作成：案件情報と連動して請求書を自動作成
- 原価管理：案件ごとの収支をリアルタイムで把握
エクセルでの手作業から脱却し、書類作成の時間を大幅に削減できます。
建設SaaSの導入メリット
建設SaaSを導入することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。主なメリットを紹介します。
メリット①：初期費用を抑えられる
建設SaaSの大きなメリットは、初期費用を大幅に抑えられることです。
オンプレミス型のシステムでは、サーバーの購入・設置、ソフトウェアのライセンス購入、システム構築などに多額の初期費用がかかります。一方、建設SaaSは月額または年額の料金制で、必要なサービスを必要な期間だけ利用できるため、コストパフォーマンスに優れています。
また、アップグレードの費用や、サーバーの保守・運用にかかる費用も不要です。
メリット②：業務効率化・生産性向上
建設SaaSは、自動化可能な業務プロセスを提供し、作業時間の短縮と人的ミスの削減に寄与します。
設計図や施工図、写真、報告書といった建設業務で扱うさまざまな書類をデジタルデータ化し、一元管理できるようになります。必要な情報をすぐに検索・共有できるため、業務を大幅に効率化できます。
メリット③：リアルタイムでの情報共有
建設SaaSはクラウドベースのため、現場と事務所をリアルタイムでつなぐことができます。
インターネット経由で情報を共有できるため、口頭による伝達ミスを防止できます。また、近年はマルチデバイス対応のサービスも増えており、パソコン以外でもタブレットやスマートフォンでの利用も可能です。
メリット④：ペーパーレス化の実現
建設SaaSを導入すると、ペーパーレス化が実現できます。
紙の書類を電子化し、データを一元管理することで、書類の紛失リスクが減少し、必要な情報を迅速に検索・共有できるようになります。印刷代や郵送費などのコスト削減にもつながります。
メリット⑤：DX化の推進
建設業界にとって、DX（デジタルトランスフォーメーション）の推進は重要な課題です。
建設業界では、高齢化や技術の導入における困難さなどによりDX化が遅れています。しかし、建設SaaSを導入することで、建設業のDX化に対応できます。
建設業界のDX化は、生産性の向上や多様化していく顧客のニーズ対応につながります。例えば、工事進捗をリアルタイムで確認できる機能を利用することで、トラブルが発生した際も迅速に対処できます。
建設SaaSを選ぶポイント
建設SaaSを選定する際には、以下の5つのポイントから検討することをおすすめします。
ポイント①：コストパフォーマンス
SaaSは月額料金制のため初期費用が抑えられます。ただし、長期的な利用を考慮すると、ランニングコストがかさむ場合もあるため、利用年数を考慮したトータルコストを比較することが重要です。
コスト比較の際にチェックすべき項目は以下の通りです。
- 月額料金に含まれる機能とサービス内容
- 利用人数や現場数に応じた料金体系
- 初期費用の有無
- 外部メンバー（協力会社・職人）の費用
- オプション機能の追加費用
ポイント②：必要な機能があるか
SaaSは多機能型が一般的ですが、必要以上の機能が付いているとコストが高くなる場合があります。自社の業務に必要な機能を明確にし、それを満たすツールを選びましょう。
機能の多さだけでなく、それぞれの機能が自社の業務にどう活かせるかを確認してください。多機能という訴求だけでシステムを選んでしまえば、実際に自社で活用できるツールがなくて損をしてしまう可能性もあります。
主要な機能の例は以下の通りです。
- 案件管理：工事ごとの進捗状況や契約情報を一元管理
- 工程管理：作業スケジュールをリアルタイムで可視化
- 写真管理：現場写真を自動整理・保存
- 図面管理：設計図や施工図をクラウドで共有
- 報告機能：日報や報告書をスマホから作成
- 見積もり・請求機能：経理業務を効率化
ポイント③：対象規模・業界に合っているか
建設SaaSは、提供対象とする業界や企業規模によって適したツールが異なります。自社が属する業界や規模に対応したSaaSを選ぶことが、導入成功の鍵です。
| 業界・規模 | 重視すべきポイント |
|---|---|
| 住宅建設 | 設計図面の共有や小規模現場向けの簡易管理機能 |
| 土木工事 | 現場単位での進捗記録や重機管理 |
| リフォーム | 簡易な報告書作成や写真管理機能が充実 |
| 電気・設備工事 | 入退場管理や複数現場の同時管理 |
| 中小企業向け | 低価格でシンプルな機能構成 |
| 大企業向け | 複数現場を一括管理できる拡張性の高いシステム |
ポイント④：操作性（UI）
現場スタッフから経営者まで幅広い層が利用するため、直感的に操作できるUIが求められます。複雑すぎるツールは、現場での利用率が低下する原因になります。
建設業に従事する職人は「自分で触って覚えたい」というタイプの方が多く、ぱっと見でわかりやすいUIデザインが好まれます。ITツールに慣れていない方でも簡単に扱える操作性が重要です。
操作性を確認する際のポイントは以下の通りです。
- 無料トライアル期間を活用し、実際の操作感を確認する
- 現場の職人さんにも試してもらい、使いやすさを評価してもらう
- スマートフォンやタブレットでの操作性も確認する
ポイント⑤：サポート体制
導入後のサポート体制も重要な選定ポイントです。サービス提供後のサポート体制が万全であるかどうかも確認しましょう。
特に、現場を知っているスタッフがいるサービスであれば、より実用的なサポートを受けられます。
サポート体制でチェックすべき項目は以下の通りです。
- 導入時のサポート（初期設定、データ移行、操作説明）
- 問い合わせ対応の方法と時間（電話、メール、チャット）
- マニュアルやFAQの充実度
- 協力会社や職人への説明サポート
- 継続的なアップデートや機能改善の提供
建設SaaS導入時の注意点
建設SaaSを導入する際には、いくつかの注意点があります。
注意点①：インターネット環境が必要
建設SaaSはクラウドベースのため、インターネット接続が必須です。現場によっては通信環境が不安定な場合もあるため、オフライン対応の有無も確認しておくと安心です。
注意点②：段階的な導入を検討する
いきなり全ての機能を使おうとすると、現場に浸透しにくくなります。まずは最も課題を感じている業務から始め、慣れてきたら他の機能に広げていく段階的な導入が効果的です。
注意点③：管理者が率先して使う
管理者や経営者が率先して使用することで、現場への浸透がスムーズになります。「上が使っていないのに、なぜ自分たちが使わなければならないのか」という不満を防ぎ、全社的な活用につなげられます。
注意点④：セキュリティを確認する
クラウドサービスを利用するため、セキュリティ対策が重要です。データの暗号化、アクセス権限の設定、バックアップ体制などを確認しておきましょう。
まとめ
この記事では、建設SaaSの概要から導入メリット、選ぶポイントまで解説しました。
建設SaaSとは、建設業界に特化したクラウドベースのソフトウェアサービスです。人手不足、技術の属人化、長時間労働といった建設業界の課題を解決する手段として、多くの企業で導入が進んでいます。
建設SaaSを選ぶ際のポイントをまとめると、以下の通りです。
- コストパフォーマンス：トータルコストを比較する
- 機能：自社に必要な機能が揃っているか確認する
- 対象規模・業界：自社の業種・規模に合ったサービスを選ぶ
- 操作性：現場でも使いやすいシンプルなUIを重視する
- サポート体制：導入後のサポートが充実しているか確認する
2024年問題への対応が求められる今、施工管理のデジタル化は避けて通れない課題です。建設SaaSを活用して、業務効率化と働き方改革を実現しましょう。
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