041_クリティカルパスで_工期短縮

クリティカルパスで工期短縮|ネットワーク工程表の作成手順

「工期を短縮したいけど、どの作業を優先すべきかわからない」「クリティカルパスという言葉は聞くけど、具体的にどう活用すればいいの?」「ネットワーク工程表でクリティカルパスを特定する方法を知りたい」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

クリティカルパスで工期短縮|ネットワーク工程表の作成手順

本記事では、クリティカルパスを活用した工期短縮の具体的な方法を解説します。ネットワーク工程表の作成手順、クリティカルパスの特定方法、工期短縮の3つの定石まで、実践的な内容を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

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目次

クリティカルパスとは?

クリティカルパス(Critical Path)とは、プロジェクトの開始から完了までのすべての経路の中で、最も時間がかかる最長の経路のことです。

クリティカルパス上の作業は余裕(フロート)がゼロのため、1日でも遅れると全体の工期に直接影響します。逆に言えば、クリティカルパス上の作業を短縮できれば、全体の工期も短縮できるということです。

クリティカルパスの基本的な考え方

  • 最長経路 = 最短工期:クリティカルパスの日数が、そのプロジェクトを完了させるために必要な最短日数
  • 余裕ゼロ:クリティカルパス上の作業には遅延が許されない
  • 重点管理対象:最も優先して管理すべき作業経路
  • 複数存在する場合もある:クリティカルパスは1本とは限らない

クリティカルパス法(CPM)とは

クリティカルパス法(Critical Path Method, CPM)とは、クリティカルパスを特定し、工程管理や工期短縮を図る手法のことです。1950年代後半に、非効率なスケジューリングによるコスト増の問題を解決するために開発されました。

現在では建築・土木・製造・ITなど幅広い分野で活用されており、複雑なプロジェクトを効率的に管理するための標準的な手法となっています。

なぜ工期短縮にクリティカルパスが重要なのか

工期短縮を実現するうえで、クリティカルパスの理解は欠かせません。その理由を解説します。

理由①:クリティカルパス以外を短縮しても工期は変わらない

工期短縮でよくある失敗は、クリティカルパス以外の作業を一生懸命短縮してしまうことです。

クリティカルパス以外の作業には「フロート(余裕時間)」があります。フロートを持つ作業をどれだけ短縮しても、全体の工期はまったく縮まりません。チームは疲弊するのに、効果がゼロという最悪のパターンに陥ってしまいます。

理由②:クリティカルパスを短縮すれば工期全体が縮まる

クリティカルパス上の作業を短縮できれば、その分だけ全体の工期も短縮できます。これが工期短縮の鉄則です。

たとえば、クリティカルパス上の作業を3日短縮できれば、全体の工期も3日短縮できます。最小限の手段で最大の効果を得られるのが、クリティカルパスを活用した工期短縮のメリットです。

理由③:リソースの最適配分が可能になる

クリティカルパスを把握することで、人員や資材などのリソースをどこに重点配分すべきかが明確になります。

クリティカルパス上の作業には優先的にリソースを投入し、フロートがある作業は後回しにするなど、戦略的なリソース配分が可能になります。

クリティカルパスを特定する手順

クリティカルパスを特定する手順

クリティカルパスを特定するには、いくつかのステップを踏む必要があります。具体的な手順を解説します。

ステップ1:作業(タスク)の洗い出し

最初に、プロジェクトに必要なすべての作業を洗い出します。

大項目(基礎工事、躯体工事など)から細分化し、漏れがないようにリストアップします。このとき、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)を活用すると、ツリー状に整理でき、タスクの漏れを防げます。

ポイント:タスクの粒度は「1日〜1週間程度で完了する単位」が目安です。大きすぎると管理が難しく、小さすぎると工程表が煩雑になります。

ステップ2:作業の依存関係を整理

次に、各作業の依存関係(前後関係)を整理します。

  • どの作業が終わらないと次に進めないか
  • どの作業は同時並行で進められるか
  • どの作業が独立しているか

たとえば、「基礎工事が完了しないと躯体工事に着手できない」「電気工事と設備工事は並行して進められる」といった関係性を明確にします。

ステップ3:各作業の所要日数を見積もる

各作業に必要な日数を見積もります。

過去の実績や経験をもとに、現実的な所要日数を設定しましょう。楽観的すぎる見積もりは避け、ある程度の余裕を持たせることも重要です。

ステップ4:ネットワーク図(PERT図)を作成

ここまでの情報をもとに、ネットワーク図(PERT図)を作成します。

ネットワーク図では、作業を矢線(→)で、作業の開始・終了点を丸印(○)で表現します。これにより、タスクの流れや依存関係を視覚的に把握できるようになります。

ステップ5:各経路の所要日数を計算

ネットワーク図上で、開始点から終了点までのすべての経路を洗い出し、各経路の所要日数を計算します。

計算方法:

  1. 開始点から終了点までの経路をすべて列挙
  2. 各経路に含まれる作業の日数を合計
  3. 最も日数が大きい経路がクリティカルパス

例:

  • 経路A:①→②→③→⑤ = 5日+3日+7日 = 15日
  • 経路B:①→②→④→⑤ = 5日+6日+4日 = 15日
  • 経路C:①→④→⑤ = 8日+4日 = 12日

この場合、経路Aと経路Bがクリティカルパス(15日)となります。

ステップ6:フロート(余裕時間)を計算

クリティカルパス以外の経路には、フロート(余裕時間)があります。

フロートの計算式:

フロート = クリティカルパスの日数 − その経路の日数

上記の例では、経路Cのフロートは 15日 − 12日 = 3日となります。つまり、経路Cの作業は3日まで遅れても全体の工期に影響しません。

工期短縮の3つの定石

クリティカルパスを特定したら、具体的にどうやって工期を短縮するのか。ここでは工期短縮の3つの定石を紹介します。

定石①:圧縮(クラッシング)

圧縮(クラッシング)とは、リソース(人員・資金など)を追加投入して、作業期間を短くする方法です。

具体的な手段:

  • クリティカルパス上の作業に経験者を追加投入する
  • 残業・休日出勤で作業時間を増やす
  • 外注・応援を依頼する
  • 機材・資材の増強で作業効率を上げる

注意点:

  • コストが増大する
  • 「人を増やせば何でも早くなる」わけではない(ブルックスの法則)
  • タスクの粒度が大きく、並列可能な作業に絞って投入するのがポイント

定石②:高速化(ファストトラッキングの準備)

高速化とは、作業そのものを効率化して、所要時間を短くする方法です。

具体的な手段:

  • 作業の標準化・テンプレート化:繰り返し作業の効率化
  • ツール・機械の活用:手作業を機械化・自動化
  • コミュニケーションの改善:情報共有のロスを削減
  • 待ち時間の削減:承認待ち、資材待ちなどのボトルネックを解消

注意点:

  • 効果が出るまでに時間がかかる場合がある
  • 品質低下を招かないよう注意が必要

定石③:並列化(ファストトラッキング)

並列化(ファストトラッキング)とは、本来は順番に行う作業を、同時並行で進める方法です。

具体的な手段:

  • 先行着手:前の作業が完全に終わる前に、次の作業を開始する
  • 仮前提での作業開始:確定情報を待たずに、仮の情報で着手する
  • 工程の分割:1つの作業を分割し、一部を先行して進める

建設現場での例:

  • 設計が確定する前に、確定している部分から解体工事を開始
  • 1階の躯体工事と同時に、地下の設備工事を進める

注意点:

  • 管理が複雑になる
  • 前の作業の結果次第で、やり直し(手戻り)が発生するリスクがある
  • リスクを説明し、発注者の判断を仰ぐことが必須

工期短縮を成功させるポイント

クリティカルパスを活用した工期短縮を成功させるための重要なポイントを解説します。

ポイント①:まずクリティカルパスを特定する

工期短縮を検討するときは、以下の順番が鉄則です。

  1. WBSとネットワーク図を作成する
  2. クリティカルパスを特定する
  3. クリティカルパス上の作業に対して短縮策を検討する

やみくもに「とにかく急いで!」と号令をかけても、現場が混乱するだけです。

ポイント②:短縮目標を明確にする

「いつまでに」「どれだけ」短縮したいのかを明確にします。

  • 例:「引渡し日を2週間前倒ししたい」
  • 例:「躯体工事完了を5営業日早めたい」

短縮目標が曖昧だと、どこまで頑張ればいいのか判断できません。

ポイント③:フロートを活用する

クリティカルパス以外の作業にはフロート(余裕時間)があります。このフロートを活用しましょう。

  • フロートがある作業の人員を、クリティカルパス上の作業に一時的に応援に回す
  • フロートがある作業の開始を遅らせ、クリティカルパス上の作業にリソースを集中

ポイント④:定期的に見直す

工事が進むにつれて、クリティカルパスが変わる可能性があります。

設計変更や不測の事態が発生した場合は、ただちにネットワーク工程表を更新し、クリティカルパスに影響がないか再評価しましょう。定期的な進捗レビューを行い、遅れの兆候があれば早めに手を打つことが大切です。

ポイント⑤:関係者を巻き込む

クリティカルパスの重要性をプロジェクト関係者全員に理解してもらうことが大切です。

明快な図を作成し、クリティカルパス上にある作業の担当者に「この作業が遅れると全体の工期が遅れる」ことを伝えましょう。関係者全員がスケジュール意識を強く持つことで、遅延を未然に防げます。

工期短縮でやってはいけないこと

工期短縮を目指す際に、避けるべき失敗パターンを紹介します。

NG①:クリティカルパス以外の作業を短縮する

前述の通り、フロートがある作業をどれだけ短縮しても、全体の工期は変わりません。チームが疲弊するだけで、効果はゼロです。

NG②:残業前提の計画を立てる

残業や休日出勤を前提とした計画は、チームの疲弊と品質低下を招きます。短期的には効果があっても、長期的には生産性が低下し、事故やミスのリスクも高まります。

NG③:関係者への説明なしに進める

工期短縮の事情を共有せずに進めると、後から「そんな話は聞いていない」とトラブルになります。短縮の目的・背景・メリット・デメリットを、発注者や関係者にわかる言葉で説明することが必須です。

NG④:品質を犠牲にする

工期短縮のために品質を犠牲にすると、手戻りや是正工事が発生し、結果的に工期が延びることになります。工期・コスト・品質のバランスを常に意識しましょう。

建設現場でクリティカルパスになりやすい作業

建設プロジェクトでクリティカルパスに含まれやすい作業を紹介します。これらの作業は特に重点管理が必要です。

①行政の許認可業務

建築確認申請、開発許可、消防同意など、行政の許認可は時間がかかり、自社の努力では短縮が難しい作業です。早めに申請を行い、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

②資材・機材の調達

特注品や納期の長い資材は、調達にリードタイムがかかるため、クリティカルパスになりやすいです。早期発注や代替品の検討が必要です。

③専門工事(設備・電気など)

設備工事や電気工事は、専門業者のスケジュールに左右されることが多いです。早めの調整と密な連携が求められます。

④天候に左右される屋外作業

コンクリート打設や外壁工事など、天候の影響を受けやすい作業は、予備日を確保しておくことが重要です。

まとめ

クリティカルパスとは、プロジェクトの最長経路であり、工期を決定する最重要経路です。

工期短縮を実現するためのポイントは以下の通りです。

  • まずクリティカルパスを特定する(クリティカルパス以外を短縮しても工期は変わらない)
  • 短縮の3つの定石:圧縮(リソース投入)、高速化(効率化)、並列化(同時進行)
  • フロートを活用してリソースを最適配分
  • 定期的に見直し、クリティカルパスの変化に対応
  • 関係者全員にクリティカルパスの重要性を共有

クリティカルパスを正しく理解し、重点管理することで、最小限のリソースで最大の工期短縮効果を得ることができます。

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