「実行予算管理とは何か」「実行予算と原価の差異をどう分析すればいいのか」「予算管理を効率化したい」——建設業の経営者や現場責任者の方にとって、実行予算管理は利益確保に直結する重要なテーマです。
本記事では、実行予算管理の基本から実践的な活用方法まで詳しく解説します。施工管理アプリを活用した効率的な予算管理、原価との差異分析、利益率改善のポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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実行予算とは？
実行予算とは、建設工事の現場ごとに必要な原価を想定して設定される具体的な予算のことです。工事の着工から完成までにかかる全ての費用と予想される収入を詳細に見積もった金額で、「この金額内で施工すれば利益を出せる」という基準となります。
建設業は製造業のような同一製品の反復生産ができず、現場ごとに作られる生産物が異なります。そのため、現場によって必要な資材の量や人員の数などが異なり、一括りに予算を決められません。
実行予算を作成することで、以下のことが可能になります。
- 工事プロジェクトの収益性を正確に予測できる
- コスト管理の効率化ができる
- リスクの早期発見と対策ができる
- 見積からどれくらいの粗利益が残るかを把握できる
実行予算と基本予算の違い
実行予算と似た概念に「基本予算」があります。両者の違いを理解しておきましょう。
| 項目 | 実行予算 | 基本予算 |
|---|---|---|
| 対象 | 工事現場ごと | 会社全体 |
| 期間 | 工事の着工から竣工まで | 1会計期間（1年） |
| 内訳 | 材料費、労務費、外注費、経費など | 営業活動費、工事費、広告費、一般管理費など |
| 目的 | 現場ごとの原価・利益管理 | 経営全体の方向性を示す基盤 |
実行予算と見積・積算の違い
実行予算、見積、積算はそれぞれ異なる役割を持っています。
積算：工事の設計図・図面などから、工事にかかる人件費や材料費、経費といった費用を算出すること
見積：積算で求められた数値に自社の利益を加算し、発注者に提示する金額
実行予算：見積を元に、現場ごとの原価に組み替えたもの（社内用の原価計画）
作成の順番は「積算 → 見積 → 実行予算」となります。見積金額から実行予算を引くと、会社に残る粗利が把握できます。
実行予算管理とは？
実行予算管理とは、作成した実行予算に基づいて工事の原価と利益を継続的に管理し、予算と実績の差異を分析しながらコストをコントロールする一連のプロセスです。
建設業における原価管理は、契約金額の範囲内でどのようにして利益を確保するかという視点で行われます。これは「コスト・マネジメント」と呼ばれる考え方で、実行予算によって工事ごとの原価と利益を可視化し、原価に対して「かかるものはかかる」という思考停止を避けることから始まります。
実行予算管理の重要性
材料費や労務費などのコストが右肩上がりとなっている現在、経験や感覚だけに任せた原価管理は大変危険です。実行予算管理を徹底することで、以下のメリットが得られます。
- 赤字・損失の早期発見：実際原価と実行予算を比較し、問題を早期に察知
- 確実な利益確保：予算内でのコストコントロールが可能に
- 再発防止：見過ごされていた赤字や損失の原因究明と対策
- 社員のスキルアップ：現場責任者の工事管理・原価意識が向上
実行予算の内訳
実行予算に含まれる主な費用項目を確認しておきましょう。
直接工事費
工事に直接かかる費用です。
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 材料費 | セメント、鉄筋、木材、塗料など工事で使用する資材の費用 |
| 労務費 | 現場で直接作業する職人・技術者への賃金 |
| 外注費 | 協力会社・下請業者への支払い |
| 機械費 | 重機のリース料、燃料費、メンテナンス費用 |
間接工事費
工事を進めるために必要だが、直接的には工事に使われない費用です。
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 現場管理費 | 現場事務所の維持費、光熱費、通信費など |
| 仮設費 | 足場、仮囲い、仮設トイレなどの費用 |
| 安全対策費 | 安全設備、保護具、安全教育の費用 |
| 運搬費 | 資材や機械の輸送にかかる費用 |
実行予算を作成する目的
実行予算を作成する目的は主に3つあります。
目的①：コストの把握と管理
建設業はその性質上、案件・現場によって必要な費用が変動するため、一律にコストを把握・管理するのは容易ではありません。
しかし、実行予算を作成すれば、現場ごとにかかる費用やコストを高い精度で把握できるようになります。材料費、労務費、外注費などを細分化して割り振ることで、各工事でどれだけの費用が発生するのかが明確になり、必要に応じて材料の追加購入や人員の再配置など、具体的な対応が取れるようになります。
目的②：損失・赤字の把握
工事や作業が始まると、原材料費や人件費などの「実際原価」が発生します。
この実際原価と実行予算を比較することで、プロジェクトが赤字で進行しているのか、どのくらい損失が発生しているのかをリアルタイムで把握できます。早期に問題を発見することで、迅速な対策が可能になります。
目的③：粗利益の予測と利益確保
実行予算を作成することで、見積金額から実行予算を差し引いた粗利益を事前に予測できます。
経営者や管理者は、この実行予算をもとに会社全体の目標や収支計画を策定できるようになり、戦略的な営業目標の確立にも役立ちます。
実行予算の作成手順
実行予算の作成手順を解説します。
手順①：予算作成者を決定する
まず、予算作成者を決定し、責任の所在を明確にします。一般的には、現場の状況を最も熟知している現場責任者を任命することが望ましいです。
現場責任者が予算作成に携わることで、工事全体への当事者意識が高まり、利益やコストに対して厳しい視点を持つことができるようになります。
手順②：見積書をもとに実行予算案を作成する
契約時に作成された見積書の数値をベースに組み替え、実行予算案を作成します。見積書の時点で工事の枠組みや詳細が多く決定されているため、客観的な数値を基準にできます。
ただし、見積の原価をそのまま移行した実行予算では意味がありません。施工実態に即した原価を反映することが重要です。
手順③：費用項目を細分化する
材料費、労務費、外注費、経費などの費用項目を細分化して割り振ります。工程ごとにかかる費用を洗い出し、具体的な金額を設定します。
手順④：各部署・責任者と共有・調整する
実行予算案を各部署や工程ごとの責任者に共有し、調整・決済を行います。多角的視点からチェックを受けることで、実行予算の精度が高まります。
また、各工程の責任者が予算や収支を意識することで、工事現場の責任者がすべてを負担する必要がなくなり、効率的な管理が可能となります。
手順⑤：承認を得て運用開始
受注金額・利益率・工事難易度などによって、承認ルート（直属上司承認／工事部長承認／社長承認など）を決めておきます。承認を得たら、実行予算に基づいた工事管理を開始します。
実行予算と原価の差異分析
実行予算管理で重要なのが、予算と実績の差異分析です。定期的に差異を分析し、問題があれば早期に対策を講じます。
差異分析の手順
STEP1：定期集計
月次や工程節目で、各費目（材料費・外注費・労務費など）の「実行予算」と「実績金額」を一覧で集計します。
STEP2：差異分析
金額差や割合差を算出し、乖離の大きい項目をピックアップします。
STEP3：原因特定
発注ミス・仕様変更・単価の変動・作業手戻りなど、差異が生じた原因を現場担当者や管理者とともに確認します。
STEP4：是正・調整対応
残り工程でのコスト圧縮、仕入先見直し、外注範囲の再検討などの対応を検討・実施します。
STEP5：再予算・報告
必要に応じて実行予算を再設定し、関係者間で共有。月次報告資料や社内会議で進捗と対策を説明します。
この流れを継続的に繰り返すことで、現場主導のコスト管理が可能になり、会社全体の利益体質の強化につながります。
差異が生じる主な原因
| 原因 | 具体例 |
|---|---|
| 資材価格の変動 | 資材高騰により材料費が予算オーバー |
| 仕様変更・追加工事 | 発注者からの変更指示による費用増加 |
| 天候・地盤の影響 | 悪天候による工期延長、地盤改良の追加 |
| 作業の手戻り | 施工ミスによるやり直し費用の発生 |
| 見積精度の不足 | 積算段階での数量・単価の見誤り |
| 発注・購買ミス | 材料の過剰発注や誤発注 |
利益率を改善するポイント
実行予算管理を通じて利益率を改善するポイントを紹介します。
ポイント①：社内ルールを整備する
実行予算管理を徹底するために、まず取り組むべきは社内ルールの整備です。
- 工種・要素の統一コード化：社内共通のコードを作り、一気通貫の管理を可能に
- 標準単価の共通化：労務費や機械費、主要材料などの標準単価を共通化し、誰が実行予算を作成しても同じ単価で作成できるように
- 提出期限の明確化：「受注後〇日まで」というように予算の提出期限を明確に
- 承認ルートの決定：受注金額・利益率・工事難易度に応じた承認ルートを設定
ポイント②：予算消化率で評価する
工事は受注段階で儲からない工事と決まっているケースもあります。工事担当者の努力度を、利益率ではなく予算消化率で評価することで、実行予算作成へのモチベーションを高められます。
ポイント③：定期的な見直しと更新
実行予算は作成して終わりではありません。工事の進捗に合わせて定期的に見直し・更新することが重要です。予想外の追加工事や資材価格の変動が生じた場合は、実行予算を柔軟に修正しましょう。
ポイント④：過去データを蓄積・活用する
過去の工事データを蓄積し、次の実行予算作成に活用することで、予算精度が向上します。類似工事の実績データを参照することで、より現実的な予算を組めるようになります。
実行予算管理の課題
実行予算管理には、いくつかの課題があります。
課題①：担当者により書式や金額が異なる
担当者によって予算書の書式や使用する単価が異なると、精度にばらつきが生じ、正確な比較・分析ができません。
課題②：予算作成の必要性を感じていない
目的が共有されていないため、担当者のモチベーションが上がらず、予算書を作成するのをやめてしまうケースが多いです。
課題③：エクセル管理の限界
エクセルで実行予算を作成することは可能ですが、以下のデメリットがあります。
- 工事ごとのテンプレートのメンテナンスが手間
- 作成者によって予算精度にばらつきが生じやすい
- リアルタイムでの共有・更新が難しい
- データの検索・集計に時間がかかる
施工管理アプリで実行予算管理を効率化
これらの課題を解決し、実行予算管理を効率化するには、施工管理アプリ・システムの活用がおすすめです。
施工管理アプリを活用するメリット
①リアルタイムでの原価把握
クラウド型システムでは、各フェーズごとの原価をリアルタイムに可視化できます。追加発注や手戻りコストの影響も容易に把握でき、日々の進捗を瞬時に確認できます。
②過去データの活用
過去の予算や実績データ、見積もりデータ、最新の原価（材料費、労務費、外注費の単価など）をリアルタイムで反映できます。これにより、予算精度のばらつきが出にくくなります。
③情報の一元管理
事務所と現場間、元請けと下請け間での情報共有ツールとしても機能し、予算管理の標準化と効率化を実現します。
④自動計算・集計機能
規定の項目に入力すれば集計や自動計算を行うように作られているため、エクセルよりも簡単に充実した機能を活用できます。
⑤社員の意識向上
日々の進捗を管理するシステムにより、従業員が自ら利益向上に向けた行動を意識的に取るようになり、利益率の大幅な向上につながった事例もあります。
施工管理アプリ導入のポイント
施工管理アプリを選ぶ際は、以下のポイントを確認しましょう。
| 選定ポイント | 確認事項 |
|---|---|
| 必要な機能の有無 | 実行予算作成、原価管理、差異分析機能があるか |
| 操作性 | 現場担当者が簡単に使えるか |
| クラウド対応 | リアルタイムで情報共有できるか |
| 他システムとの連携 | 会計ソフトや見積ソフトと連携できるか |
| 料金・コスト | 導入費用、月額料金は予算内か |
| サポート体制 | 導入支援やサポートが充実しているか |
実行予算管理の注意点
実行予算管理を行う際の注意点をまとめます。
注意点①：施工実態に即した予算を作成する
見積をそのまま移行した実行予算では意味がありません。施工計画に基づき、施工実態に即した原価を算出する必要があります。
注意点②：変更があれば随時更新する
予算に変更があった場合は変更申請を提出し、会社として承認した上で、当初金額と変更金額の履歴を管理します。
注意点③：追加工事は別工事として管理する
追加工事やクレーム工事は、必ず別工事として工事番号を取り、実行予算を作成します。本工事と混同すると正確な原価管理ができなくなります。
注意点④：全社員がアクセスできる環境を整える
実行予算は、社員全員がいつでも参照できるように保管場所を明確にします。施工管理アプリを活用すれば、クラウド上で簡単に共有できます。
まとめ
実行予算管理とは、建設工事の現場ごとに設定した予算に基づいて原価と利益を継続的に管理し、予算と実績の差異を分析しながらコストをコントロールするプロセスです。
本記事のポイント：
- 実行予算とは、現場ごとに必要な原価を想定して設定される具体的な予算
- 実行予算管理により、赤字・損失の早期発見と利益確保が可能に
- 差異分析は「定期集計→差異分析→原因特定→是正対応→報告」のサイクルで
- 社内ルールの整備と予算消化率での評価が利益率改善のカギ
- 施工管理アプリを活用すれば、リアルタイムでの原価把握と効率的な予算管理が可能
適切な実行予算管理は、工事の成功と収益確保に直結します。施工管理アプリを活用して、効率的な予算管理体制を構築しましょう。
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