「現場の安全対策を強化したい」「労災事故を防ぐにはどうすればいい?」「リスクアセスメントの方法がわからない」。建設業に携わる方の中には、安全対策について悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

建設業は全産業の中で労働災害による死亡者数が最も多い業種です。高所作業や重機の使用など危険を伴う作業が多く、安全対策の徹底が欠かせません。
この記事では、建設業の安全対策を完全ガイドとして解説します。労災防止のポイント、安全管理体制の構築方法、リスクアセスメントの進め方まで詳しく紹介しますので、現場の安全を守るためにぜひ参考にしてください。
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建設業の労働災害の現状
まず、建設業における労働災害の現状を確認しましょう。
建設業の労災発生状況
建設業は他の業種と比較して事故率やケガの発生率が非常に高い業種です。厚生労働省の統計によると、建設業における労働災害死亡者数は全産業の約3割を占めています。
令和5年の建設業における労働災害死亡者数は223人にのぼり、依然として高い水準にあります。
建設業の三大災害
建設業では、以下の3つが「三大災害」と呼ばれ、特に重篤な労働災害が多く発生しています。
| 災害の種類 | 割合 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 墜落・転落 | 約32% | 足場、はしご、屋根からの転落 |
| 建設機械等による災害 | 約25% | 重機との接触、はさまれ・巻き込まれ |
| 崩壊・倒壊 | 約10% | 土砂崩壊、構造物の倒壊 |
特に「墜落・転落」が全体の約3分の1を占めており、高所作業における安全対策が最も重要な課題となっています。
労災が多発する時間帯
統計データの分析によると、事故の約70%が作業開始から2時間以内、または作業終了前の1時間に集中して発生しています。この時間帯に特化した注意喚起と安全確認の強化が求められます。
労災防止の基本【5つのポイント】
労働災害を防止するための基本的なポイントを5つ紹介します。
ポイント1:安全ルールの徹底
建設現場では、安全に作業を行うためのルールが定められています。しかし、ルールを守らない「不安全行動」が事故の大きな原因となっています。
【徹底すべき安全ルール】
- 高所作業でのハーネス(安全帯)の着用
- ヘルメットの正しい装着
- 手すり・安全ネットの設置
- 重機の作業範囲への立入禁止
- 合図・声かけの実施
安全ルールを周知徹底し、全員が守る環境を作ることが重要です。
ポイント2:保護具の正しい使用
保護具の着用は、万が一の事態に備えた防止策として有効です。建設業労働災害防止規程にも定められています。
【主な保護具】
- ヘルメット:頭部を保護(飛来・落下物対策)
- フルハーネス型安全帯:墜落時の身体保護
- 安全靴:足元の保護(踏み抜き・落下物対策)
- 保護メガネ:目の保護(粉じん・飛散物対策)
- 耳栓・イヤーマフ:騒音対策
- 防じんマスク:粉じん吸入防止
ポイント3:作業前の安全確認
毎日の作業開始前の安全確認を徹底することで、事故発生率を大幅に低減できます。作業開始前の安全確認を徹底している現場では、事故発生率が平均より40%低くなっているというデータもあります。
【作業前の確認項目】
- 作業員の体調チェック(血圧・体温測定)
- アルコールチェック
- 当日の作業内容と危険ポイントの共有
- 機械・設備の点検
- 作業手順の確認(指差し呼称)
「指差し呼称」を導入した現場では、ヒヤリハット件数が平均して35%減少したというデータも報告されています。
ポイント4:適切な人員配置と体調管理
過密なスケジュールや過度な負荷は事故の要因となります。作業員に負荷がかかると注意力や安全配慮が低下し、ミスを誘発します。
【対策のポイント】
- 余裕のある人員を確保する
- 各工程における人員の配置を適正化する
- 作業員の体調管理を徹底する
- 高齢作業員にはこまめな休憩を設ける
- 夏季は熱中症対策を徹底する
ポイント5:定期的な現場巡視
現場巡視(パトロール)は、顕在化した、または潜在化している災害の芽を発見し、対策を講じるために重要です。
【巡視のポイント】
- チェックリストを用いて確認する
- 作業者に声をかけ、現場の緊張感を維持する
- 不安全行為を発見したらその場で指導する
- 工事の進捗状況も確認する
- 始業前後や自然災害発生後にも点検を行う
三大災害の防止対策
建設業の三大災害それぞれの防止対策を解説します。
墜落・転落災害の防止対策
墜落・転落災害は建設業で最も多い災害です。高所作業における安全対策を徹底しましょう。
【設備面の対策】
- 足場には必ず手すり・中さん・巾木を設置する
- 安全ネットを設置する
- 開口部には蓋・囲いを設ける
- 昇降設備(階段・はしご)を適切に設置する
- 作業床は十分な幅と強度を確保する
【作業者の対策】
- 高さ2m以上の作業ではフルハーネス型安全帯を使用する
- 安全帯は必ず適切な場所に掛ける
- 足場の昇降時は3点支持を徹底する
- 悪天候時(強風・雨・雪)は作業を中止する
建設機械等による災害の防止対策
重機との接触、はさまれ・巻き込まれによる災害を防止するための対策です。
【対策のポイント】
- 誘導者を配置し、合図を徹底する
- 重機の作業範囲への立入禁止を徹底する
- 立入禁止区域をカラーコーン・バリケードで明示する
- 作業開始前に機械の点検を行う
- 有資格者のみが運転する
- 後進時の安全確認を徹底する
崩壊・倒壊災害の防止対策
土砂崩壊や構造物の倒壊による災害を防止するための対策です。
【対策のポイント】
- 掘削面の勾配を適切に設定する
- 必要に応じて土留め支保工を設置する
- 地山の状態を確認し、崩壊の恐れがある場合は対策を講じる
- 仮設構造物は設計図通りに施工する
- 資材の積み上げは安定した状態で行う
- 大雨・地震後は点検を実施する
安全管理体制の構築
労働災害を防止するためには、組織的な安全管理体制の構築が不可欠です。

安全衛生管理体制の概要
労働安全衛生法に基づき、事業者には安全衛生管理体制を整備する義務があります。
| 役職 | 役割 | 選任基準 |
|---|---|---|
| 統括安全衛生責任者 | 現場全体の安全衛生管理を統括 | 特定元方事業者(常時50人以上) |
| 元方安全衛生管理者 | 統括安全衛生責任者を補佐 | 統括安全衛生責任者を選任した場合 |
| 安全管理者 | 安全に係る技術的事項を管理 | 常時50人以上の事業場 |
| 衛生管理者 | 衛生に係る技術的事項を管理 | 常時50人以上の事業場 |
| 安全衛生推進者 | 安全衛生業務を担当 | 常時10人以上50人未満の事業場 |
安全衛生管理計画の作成
建設現場に関わる元方事業者には「安全衛生管理計画」を作成することが求められています。
【安全衛生管理計画に含める内容】
- 安全衛生の目標
- 労災防止対策
- 安全衛生教育の計画
- 安全パトロールの計画
- 緊急時の対応
安全衛生協議会の開催
元請と下請が参加する安全衛生協議会を定期的に開催し、安全に関する情報共有と連携を図ります。
【協議会で行うこと】
- 作業間の連絡調整
- 混在作業による災害防止対策の検討
- 労働災害事例の共有と対策
- 安全ルールの周知徹底
リスクアセスメントの進め方
リスクアセスメントとは、現場に潜む危険性を事前に洗い出し、対策を講じて労働災害を防ぐための手法です。労働安全衛生法により、事業者に対して努力義務として定められています。
リスクアセスメントとは
リスクアセスメントは、以下の一連のプロセスを指します。
- 労働災害につながる危険性や有害性を見つけ出す
- リスクの評価と採点をおこなう
- 必要に応じて対策や改善措置を講じる
リスクアセスメントの効果
- 職場のリスクが明確になる:潜在的な危険を見える化できる
- 安全対策の優先順位が決まる:リスクの大きさに応じて対策を実施できる
- 職場全体で共通認識を持てる:作業者も参加することで危険に対する意識が高まる
- 残留リスクへの対応が明確になる:注意が必要な理由を作業者が理解できる
リスクアセスメントの手順【4ステップ】
ステップ1:危険性・有害性の特定
作業工程を細分化し、それぞれに潜む危険を洗い出します。
- どのような作業で
- どのような危険があり
- どのような災害が起こりうるか
ステップ2:リスクの見積もり
洗い出した危険要因ごとに「発生確率×影響度(重篤度)」を評価し、リスクをランク分けします。
| リスクレベル | 内容 | 対応 |
|---|---|---|
| Ⅴ(最高) | 重篤度・発生確率ともに高い | 直ちに対策を実施、作業停止も検討 |
| Ⅳ(高) | 重篤度または発生確率が高い | 迅速な対応が必要 |
| Ⅲ(中) | 中程度のリスク | 計画的に対策を実施 |
| Ⅱ(低) | リスクは低い | 必要に応じて対策を検討 |
| Ⅰ(最低) | リスクはほとんどない | 現状維持 |
ステップ3:リスク低減措置の検討・実施
リスクレベルの高いものから優先的に対策を検討・実施します。
【リスク低減措置の優先順位】
- 危険源の除去・低減:危険な作業自体をなくす、または危険度を下げる
- 工学的対策:設備・機械による安全対策(手すり、カバー等)
- 管理的対策:作業手順、教育訓練、標識等
- 保護具の使用:ヘルメット、安全帯、保護メガネ等
ステップ4:記録と見直し
リスクアセスメントの結果を記録し、対策の有効性を評価します。工程の変更、作業員の入れ替え、事故発生時などに応じて再評価と改善を繰り返すことで、現場の安全性を高められます。
リスクアセスメントの事例
【足場作業のリスクアセスメント例】
| 作業 | 危険性 | 重篤度 | 発生確率 | リスク低減措置 |
|---|---|---|---|---|
| 足場上での作業 | 墜落・転落 | 高 | 中 | 手すり設置、安全帯使用 |
| 資材の運搬 | 落下物による災害 | 高 | 低 | ネット設置、立入禁止 |
| 足場の昇降 | 転落 | 中 | 中 | 昇降設備の整備、3点支持徹底 |
安全教育の実施
労働安全衛生法に基づき、建設業者は従業員に対して適切な安全教育を行う義務があります。
安全教育の種類
| 教育の種類 | 対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 雇入れ時教育 | 新規入場者 | 現場のルール、危険箇所、緊急時対応 |
| 作業内容変更時教育 | 配置転換者 | 新しい作業の危険性、安全作業方法 |
| 特別教育 | 危険有害業務従事者 | 足場の組立て、フルハーネス、玉掛け等 |
| 職長教育 | 職長・作業主任者 | 作業方法の決定、指揮監督の方法 |
安全教育のポイント
- 定期的に実施する:一度きりではなく継続的に行う
- 実践的な内容にする:現場での具体的な危険と対策を教える
- 災害事例を活用する:実際の事故事例から学ぶ
- 作業者参加型にする:一方的な講義ではなく、参加・体験を取り入れる
熱中症対策
建設現場では熱中症も大きなリスクです。特に夏季は徹底した対策が必要です。
熱中症対策のポイント
- WBGT値(暑さ指数)の測定:28度を超える場合は休憩時間を増加
- こまめな水分・塩分補給:のどが渇く前に補給
- 休憩場所の確保:日陰や空調のある場所を用意
- 作業時間の調整:暑い時間帯を避ける
- 体調管理の徹底:睡眠不足・体調不良時は無理をさせない
- 熱中症の症状と対処法の教育:早期発見・早期対応
安全対策のチェックリスト
現場で活用できる安全対策のチェックリストです。
【毎日の確認事項】
- □ 作業員の体調確認を行ったか
- □ 当日の作業内容と危険ポイントを共有したか
- □ 保護具を正しく着用しているか
- □ 機械・設備の点検を行ったか
- □ 立入禁止区域を明示したか
【高所作業時の確認事項】
- □ 手すり・中さん・巾木は設置されているか
- □ 安全ネットは設置されているか
- □ フルハーネス型安全帯を使用しているか
- □ 安全帯を適切な場所に掛けているか
- □ 開口部に蓋・囲いはあるか
【重機作業時の確認事項】
- □ 誘導者を配置したか
- □ 作業範囲への立入禁止を徹底したか
- □ 有資格者が運転しているか
- □ 作業開始前に機械の点検を行ったか
まとめ
建設業は労働災害による死亡者数が全産業で最も多い業種です。安全対策を徹底し、労働災害を未然に防ぐことが重要です。
労災防止の5つのポイント:
- 安全ルールの徹底
- 保護具の正しい使用
- 作業前の安全確認
- 適切な人員配置と体調管理
- 定期的な現場巡視
安全対策の取り組み:
- 三大災害(墜落・転落、建設機械、崩壊・倒壊)の防止対策
- 安全管理体制の構築
- リスクアセスメントの実施
- 安全教育の実施
- 熱中症対策
安全対策は一度きりで終わるものではなく、継続的に改善していくことが大切です。安全管理計画を策定し、リスクアセスメントを実施し、PDCAサイクルを回すことで、現場の安全性を高めていきましょう。

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