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建設業のペーパーレス化|導入方法とメリットを解説

建設業界では、図面や契約書、工事写真など膨大な量の書類が日々発生し、その管理に多くの時間と労力が費やされています。2024年4月からの時間外労働の上限規制適用もあり、業務効率化の手段として「ペーパーレス化」への注目が高まっています。

本記事では、建設業におけるペーパーレス化の必要性から具体的な導入方法、メリット、活用できるツールまで詳しく解説します。

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ペーパーレス化とは

ペーパーレス化とは、オフィスや現場で使用する書類や文書を紙に印刷するのではなく、電子データに変換してパソコンやタブレットなどの端末で管理・閲覧することを指します。

建設業界においては、図面や契約書、帳票類などの紙書類をデジタル化し、クラウドやデジタルツールで管理・共有することを意味します。単に紙をスキャンしてPDF化するだけでなく、業務プロセス全体をデジタル化し、情報の一元管理と迅速な共有を実現することが目的です。

ペーパーレス化とは

ペーパーレス化が推進されている背景

建設業界でペーパーレス化が推進されている背景には、法改正の流れとテレワーク普及の2つの要因があります。

2001年4月の建設業法改正により、取引相手の承諾を得れば工事請負契約書を電子契約で締結できるようになりました。2005年には電子文書法が施行され、保管義務のある書類を電子データ化して保存することが認められています。

さらに、2024年1月からは電子帳簿保存法の改正により電子取引のデータ保存が完全義務化されました。これにより、電子データでやりとりした書類は電子データのまま保存することが求められています。

また、コロナ禍をきっかけにリモートワークを導入する企業が増え、2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されたことで、業務効率化の手段としてペーパーレス化の重要性が一層増しています。

建設業界でペーパーレス化が遅れている理由

建設業界は他の業界と比較してペーパーレス化が遅れているのが現状です。2023年に建設業従事者を対象に実施された調査によると、6割以上の企業が手作業で請求書を転記しており、営業担当の3割が1日3時間以上を書類のやり取りのための移動に費やしているという結果が出ています。

ペーパーレス化が進まない主な理由として、以下の点が挙げられます。

重層下請構造(ピラミッド構造):建設工事は元請業者を頂点に多数の下請業者が関わるため、元請企業だけがペーパーレス化を進めても効果が限定的になります。関係者全員が同じツールを使える環境を整える必要があり、導入のハードルが高くなっています。

膨大な書類の種類と量:設計図面、施工計画書、工程表、安全書類、検査記録、工事写真など、1つの工事でも膨大な種類と量の書類が発生します。どこから手をつければよいか判断が難しいという課題があります。

高齢化とデジタルリテラシーの差:建設業界は55歳以上が36.0%を占める一方、29歳以下は11.8%にとどまっています。新しいツールの導入に対する心理的な抵抗感も根強く残っています。

参考:一般社団法人 日本建設業連合会 「建設業デジタルハンドブック

建設業でペーパーレス化を進める8つのメリット

1. 業務効率化・生産性向上

書類の作成・印刷・配布・ファイリングといった手間が削減され、必要な情報をキーワード検索で瞬時に見つけられるようになります。図面の版管理も容易になり、「先祖帰り」による手戻りを防げます。

2. コスト削減

用紙代、インク代、プリンターの維持費、郵送費用などを削減できます。電子契約を導入すれば印紙税も不要になり、取引額が大きい建設業では特に効果が大きくなります。

3. 保管スペースの削減

建設業では書類の種類によっては5年から10年の保管義務がありますが、電子化すればサーバーやクラウド上に保存でき、物理的な保管スペースを大幅に縮小できます。

4. 移動時間の削減

タブレットやスマートフォンから資料を確認できれば、図面の印刷や書類の受け渡しのための移動が不要になります。遠隔地の現場でも本社や発注者とリアルタイムに情報共有が可能です。

5. 情報共有の迅速化

クラウドサービスを活用すれば、現場・事務所・取引先間で即座に情報を共有できます。工程の変更や設計の修正があっても、関係者全員が同時に最新情報を確認でき、伝達ミスを防止できます。

6. セキュリティの強化

電子データならパスワードやアクセス権限を設定して閲覧者を制限できます。アクセスログも残せるため、情報漏洩の防止につながります。クラウド上にデータを保存しておけば、災害時のデータ消失リスクも軽減できます。

7. コンプライアンスの強化

契約書や各種書類をデータ化して一元管理すれば、承認プロセスが可視化され、社内監査もスムーズに行えます。電子帳簿保存法に対応したシステムを使えば、改ざん防止の要件も満たせます。

8. 働き方改革への対応

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。ペーパーレス化による業務効率化は、労働時間の削減に直結し、残業削減と生産性向上の両立が可能になります。

ペーパーレス化のデメリット・注意点

ペーパーレス化には多くのメリットがありますが、以下の点に注意が必要です。

  • 初期コスト:システムやツール、端末の導入に費用がかかる
  • 従業員への教育:新しいツールの使い方を習得するための研修が必要
  • 通信環境:クラウドサービス利用には安定したインターネット接続が必要
  • データ管理ルール:ファイルの命名規則やアクセス権限などのルール整備が必要
  • 紙保存が必要な書類:現行法ではすべての書類を電子化できるわけではない

建設業でペーパーレス化できる主な書類

ペーパーレス化しやすい主な書類は以下のとおりです。

契約・経理関連:工事請負契約書(相手方の承諾が必要)、見積書、請求書、納品書、領収書、発注書など

工事関連:設計図面、工程表、施工計画書、工事写真、工事日報、打合せ議事録、検査記録など

安全・労務関連:安全書類(施工体制台帳、作業員名簿など)、KY活動記録、勤怠記録など

社内管理:稟議書、申請書、会議資料、マニュアルなど

特に工程表や工事写真、日報など頻繁に更新・共有が必要な書類は、ペーパーレス化の効果が高いカテゴリです。

建設業でのペーパーレス化の導入方法【5ステップ】

ステップ1:現状把握と課題の明確化

どのような書類をどのくらい扱っているか、どの業務で非効率が発生しているかを洗い出します。現場担当者へのヒアリングも行い、「時間がかかる」「ミスが多い」といった問題点を可視化します。

ステップ2:ペーパーレス化する書類の優先順位づけ

すべての書類を一度に電子化するのは現実的ではありません。利用頻度が高い書類、社内で完結する書類、複数人で共有・編集する書類など、効果が高い書類から優先的に着手します。

ステップ3:ツール・システムの選定

自社の業務に必要な機能があるか、操作性が良いか、料金体系は予算内か、法令に対応しているか、協力会社も利用できるか、サポート体制は充実しているかなどを確認し、可能であれば無料トライアルで使い勝手を試してから導入を決めます。

ステップ4:社内周知と教育

ペーパーレス化の目的やメリットを社内全体に周知し、ツールの使い方を説明するマニュアル作成や研修を実施します。ITに不慣れな従業員には丁寧なフォローが必要です。

ステップ5:運用開始と効果測定

特定の部署や現場で試験的に導入し、問題点を洗い出してから範囲を広げる「スモールスタート」がおすすめです。運用開始後は定期的に効果測定を行い、改善を重ねます。

建設業のペーパーレス化に活用できるツール

施工管理アプリ

工事写真、図面、工程表、日報など工事に関わる情報を一括管理できるツールです。スマートフォンやタブレットから操作でき、現場と事務所間でリアルタイムに情報共有が可能です。

主なアプリ例:Anymore施工管理、ANDPAD、PRODOUGU、蔵衛門、Photoruction、現場ポケット、KANNA、eYACHO、SPIDERPLUSなど

Anymore施工管理:作業予定管理機能
Anymore施工管理:作業予定管理機能

電子契約サービス

工事請負契約書などを電子的に締結できるサービスです。印紙税の削減、契約締結のスピードアップ、保管スペースの削減などのメリットがあります。なお、建設業法では相手方の同意・承諾が必要で、一定の技術的基準を満たすことも求められます。

主なサービス例:クラウドサイン、DocuSign、GMOサインなど

クラウドストレージ・図面管理システム

図面や書類をクラウド上に保存し、関係者間で共有できるサービスです。バージョン管理機能があれば、最新版の図面を常に確認できます。建設業向けに特化した図面管理システムもあります。

ペーパーレス化を成功させるポイント

  • 経営層のコミットメント:トップダウンで推進する姿勢を示す
  • スモールスタート:効果が出やすい業務から始め、小さな成功体験を積み重ねる
  • 現場目線の使いやすさ:ITに不慣れな人でも直感的に操作できるツールを選ぶ
  • 協力会社との連携:負担をかけないツール選定や導入支援を行う
  • ルール・マニュアルの整備:ファイル命名規則やアクセス権限を事前に決めておく
  • 補助金の活用:IT導入補助金(最大350万円)、ものづくり補助金(最大3,000万円)などを活用

よくある質問

Q. 中小企業でもペーパーレス化は可能ですか?

可能です。むしろ中小企業こそ、限られた人員で効率的に業務を進めるためにメリットが大きいと言えます。無料または低価格で始められるアプリも多く、スモールスタートで初期投資を抑えながら進められます。

Q. 電子帳簿保存法への対応は必須ですか?

2024年1月から、電子取引のデータ保存は原則義務化されています。電子メールやクラウドサービスで授受した請求書・領収書などは、電子データのまま保存する必要があります。

Q. 工事請負契約書も電子化できますか?

できます。2001年の建設業法改正により、相手方の承諾を得れば電子契約で締結可能になっています。ただし、建設業法施行規則で定められた技術的基準を満たす必要があります。

まとめ

建設業のペーパーレス化について解説しました。重要なポイントをまとめます。

  • ペーパーレス化とは、紙の書類を電子データに置き換え、クラウドやデジタルツールで管理・共有すること
  • 電子帳簿保存法の改正や働き方改革の推進により、建設業でもペーパーレス化の必要性が高まっている
  • 主なメリットは「業務効率化」「コスト削減」「保管スペース削減」「情報共有の迅速化」「セキュリティ強化」など
  • 導入は「現状把握」→「優先順位づけ」→「ツール選定」→「社内周知・教育」→「運用・効果測定」の5ステップで進める
  • 施工管理アプリや電子契約サービスなど、目的に応じたツールを活用する
  • 成功のポイントは「スモールスタート」「現場目線の使いやすさ」「協力会社との連携」

ペーパーレス化は一朝一夕に実現できるものではありませんが、段階的に取り組むことで着実に効果を上げることができます。2024年問題への対応としても有効な施策です。まずは自社の課題を整理し、効果が出やすい書類から始めてみてはいかがでしょうか。

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