工事請負契約書の印紙税とは
工事請負契約書を作成する際に必ず確認しなければならないのが「印紙税」です。印紙税の計算方法や貼付ルールを間違えると、過怠税として本来の税額の3倍を徴収されるケースもあります。
この記事では、工事請負契約書にかかる印紙税について、収入印紙の金額一覧、貼付ルール、軽減措置の内容、さらには電子契約による印紙税削減方法まで詳しく解説します。
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参考記事:国税庁「建設工事請負契約書の印紙税の軽減措置」
印紙税の基本知識
印紙税とは、契約書や領収書など、経済取引において作成される一定の文書に課される税金です。印紙税法で定められた「課税文書」を作成した場合、作成者は収入印紙を貼付して消印することで納税します。

工事請負契約書が課税文書に該当する理由
工事請負契約書は、印紙税法上の「第2号文書(請負に関する契約書)」に該当する課税文書です。そのため、原則として契約金額に応じた収入印紙を貼付する必要があります。
第2号文書に該当する契約書の例としては、以下のようなものがあります。
- 工事請負契約書
- 工事注文請書
- 請負金額変更契約書
- 物品加工注文請書
- 広告契約書
印紙税を納付しないとどうなるか
課税文書に収入印紙を貼付しなかった場合、または消印を行わなかった場合には、過怠税が課されます。過怠税の金額は、以下のとおりです。
| 状況 | 過怠税の金額 |
|---|---|
| 税務調査で印紙の未貼付が発覚した場合 | 本来の印紙税額の3倍 |
| 自主的に申し出た場合 | 本来の印紙税額の1.1倍 |
| 消印をしなかった場合 | 消印されていない印紙の額面金額 |
なお、過怠税は全額が法人税の損金や所得税の必要経費に算入できません。印紙の貼り忘れは企業にとって大きな税負担となるため、正確な印紙税額を把握しておくことが重要です。
工事請負契約書の印紙税額一覧
工事請負契約書に貼付する収入印紙の金額は、契約書に記載された契約金額によって決まります。現在、建設工事の請負契約書には印紙税の軽減措置が適用されており、本来の税率よりも引き下げられています。
軽減措置適用後の印紙税額表
以下は、建設工事請負契約書に適用される軽減後の印紙税額と、本来の税額(本則税率)の比較表です。
| 契約金額 | 軽減後の税額 | 本則税率 |
|---|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
| 1万円以上100万円以下 | 200円 | 200円 |
| 100万円超200万円以下 | 200円 | 400円 |
| 200万円超300万円以下 | 500円 | 1,000円 |
| 300万円超500万円以下 | 1,000円 | 2,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 5,000円 | 10,000円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 10,000円 | 20,000円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 30,000円 | 60,000円 |
| 1億円超5億円以下 | 60,000円 | 100,000円 |
| 5億円超10億円以下 | 160,000円 | 200,000円 |
| 10億円超50億円以下 | 320,000円 | 400,000円 |
| 50億円超 | 480,000円 | 600,000円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 | 200円 |
軽減措置により、契約金額が大きくなるほど節税効果が高くなることがわかります。たとえば、契約金額が1億円の場合、本則税率では6万円の印紙税がかかりますが、軽減措置により3万円で済みます。
印紙税の軽減措置について
建設工事の請負契約書には、租税特別措置法に基づく印紙税の軽減措置が適用されています。この軽減措置の概要と適用条件について詳しく解説します。
軽減措置の適用期間
軽減措置の対象となるのは、平成26年4月1日から令和9年(2027年)3月31日までに作成される建設工事請負契約書です。
この軽減措置は、平成26年4月から開始された時限的な措置でしたが、景気動向などに応じてこれまで複数回にわたり延長されてきました。令和6年度税制改正により、適用期限が令和9年3月31日まで3年間延長されました。
軽減措置の適用条件
軽減措置が適用されるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 建設業法第2条第1項に規定する建設工事の請負に係る契約書であること
- 契約書に記載された契約金額が100万円を超えること
- 平成26年4月1日から令和9年3月31日までの間に作成されるものであること
注意点:契約金額が100万円以下の契約書は軽減措置の対象外となり、本則税率(200円)が適用されます。
軽減措置の対象となる契約書の範囲
軽減措置の対象となる「建設工事」とは、土木建築に関する工事の全般をいいます。具体的には、以下のような工事が該当します。
- 建築工事
- 土木工事
- 電気工事
- 左官工事
- 管工事
- 塗装工事
- 解体工事
一方、以下のものは建設工事には該当せず、軽減措置の対象外となります。
- 建物の設計のみを行う契約
- 建設機械等の保守契約
- 船舶の建造契約
- 機械等の製作または修理契約
建設工事以外の事項が併記されている場合
建設工事の請負に係る契約書であれば、その契約書に建設工事以外の請負に係る事項(たとえば設計業務など)が併記されていても、軽減措置の対象になります。
【例】建物建設工事の請負(5,000万円)と建物設計の請負(500万円)に関する事項が記載されている契約書の場合、契約金額は5,500万円となり、軽減後の印紙税額は30,000円となります。
変更契約書・補充契約書も対象
建設請負の当初に作成される契約書だけでなく、工事金額の変更や工事請負内容の追加の際に作成される変更契約書・補充契約書も軽減措置の対象となります。
変更契約書に記載する印紙税額は、変更内容によって以下のように異なります。
- 増額変更の場合:増額された金額に応じた印紙税
- 減額変更の場合:原則として200円
収入印紙の貼付ルール
収入印紙を正しく貼付しないと、印紙税を納付したことにならない場合があります。ここでは、収入印紙の貼り方や消印の方法について解説します。
収入印紙を貼る場所
収入印紙を貼る場所について、法律上の明確な定めはありません。ただし、一般的には以下の場所に貼付します。
- 契約書の場合:1枚目の左上、または署名欄の近く
- 領収書の場合:貼付欄がある場合はその枠内、ない場合は余白部分
複数枚の収入印紙を貼付する場合は、上下または左右に並べて貼り、印紙同士が重ならないように注意しましょう。
消印の押し方
収入印紙を貼付したら、必ず消印を押さなければなりません。消印を押さないと、印紙税を納付したことにはなりません。
消印のルールは以下のとおりです。
- 収入印紙と文書(契約書)の両方にまたがるように押印または署名する
- 一見して誰が消印したかが明らかとなる程度に押印する
- 通常の方法では消印を取り去ることができないようにする
消印に使用できる印鑑・署名
消印に使用する印章や署名について、特別な規定はありません。以下のものが使用できます。
- 実印、認印
- シャチハタ
- 角印、ゴム印
- 日付印
- ボールペンでの署名(氏名の自署)
また、契約当事者のどちらか一方が消印すれば有効です。双方が消印する必要はありません。
消印として無効なもの
以下の方法は消印として認められません。
- 鉛筆やシャープペンなど、消すことができるもので書いた署名
- フリクションなど消せるボールペンでの署名
- 単に斜線を引いただけのもの
- 「印」と記載しただけのもの
- 印影がかすれて判読できないもの
消印を失敗した場合
消印がうまく押せなかった場合は、失敗した印影に重ならないように別の場所に再度押印してください。複数回押印しても問題ありません。
印紙税が不要なケース
工事請負契約書であっても、以下のケースでは収入印紙の貼付が不要となります。
契約金額が1万円未満の場合
契約書に記載された契約金額が1万円未満の場合、印紙税は非課税となります。小規模な修繕契約などでは印紙が不要です。
国・地方公共団体が作成した文書
国や地方公共団体が自身の業務のために作成する文書は、印紙税法第5条により非課税とされています。
電子契約の場合
電子契約で工事請負契約を締結する場合、契約金額にかかわらず収入印紙は不要です。
印紙税法は「紙の文書」を課税対象としており、電子データ(電磁的記録)は課税文書に該当しないためです。この点については、次章で詳しく解説します。
電子契約による印紙税削減
電子契約を導入することで、印紙税のコストを大幅に削減できます。ここでは、電子契約で印紙税が不要となる理由と、導入のメリットについて解説します。
電子契約で印紙税が不要な理由
印紙税法基本通達第44条では、課税文書の「作成」について以下のように定義しています。
「法に規定する課税文書の『作成』とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。」
つまり、紙の用紙に記載して交付することが「作成」にあたります。電子契約の場合は紙を使用せず、電子データを送信するだけですので、課税文書の「作成」には該当しません。
国税庁の見解
国税庁は、電子契約と印紙税の関係について以下のような見解を示しています。
「印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません。したがって、電磁的記録に印紙税は課税されません。」
また、2005年の国会答弁でも「文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されない」ことが明言されています。
電子契約を印刷した場合の取り扱い
電子契約として締結したデータを単に紙に印刷しただけでは、印紙税はかかりません。印刷した紙は「確認用の写し」として扱われ、法的効力を持つ契約書は電子データのほうだからです。
ただし、印刷した紙に改めて署名や押印を行い、紙の契約書として成立させる場合は、新たな契約書を作成したとみなされ、印紙税の課税対象となる可能性があります。
電子契約導入のメリット
電子契約を導入することで、印紙税削減以外にも以下のようなメリットがあります。
- コスト削減:印紙代だけでなく、印刷代、郵送代、保管コストも削減
- 業務効率化:契約締結までのリードタイムを大幅短縮
- 保管・検索の容易性:クラウド上で一元管理、検索も簡単
- セキュリティ向上:電子署名やタイムスタンプで改ざん防止
印紙税の節税方法
電子契約の導入以外にも、印紙税を節税する方法があります。正しい知識を持つことで、適切に税負担を軽減できます。
契約金額を税抜表示にする
印紙税額表の契約金額は、消費税込みが基本です。ただし、契約書で消費税を区分して記載した場合、税抜金額を印紙税額表における契約金額に適用できます。
【例】契約金額500万円の場合
| 記載方法 | 契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|---|
| 税込表示:550万円 | 550万円 | 5,000円 |
| 税抜表示:500万円(消費税50万円) | 500万円 | 1,000円 |
このように、消費税を区分記載するだけで印紙税を大幅に節約できる場合があります。
軽減措置の適用を確認する
建設工事請負契約書については、軽減措置が適用されます。本則税率で計算してしまうと余分な印紙税を納めることになりますので、必ず軽減後の税率を適用してください。
もし誤って本則税率の収入印紙を貼ってしまった場合は、所轄税務署長に申請することで還付を受けられます。
契約書の作成部数を減らす
契約書を当事者の人数分作成する場合、すべての原本に収入印紙を貼付する必要があります。契約書を1通のみ作成し、一方がコピーを保管する方法を取れば、印紙代を半減できます。
ただし、コピーに署名・押印を行うと、それも課税文書となりますのでご注意ください。

印紙税の負担者は誰か
工事請負契約書の印紙税は、発注者と受注者のどちらが負担するのでしょうか。
法律上の原則
印紙税法第3条では、課税文書の作成者に印紙税を納める義務があると定められています。工事請負契約書は通常、発注者と受注者が各1通ずつ保管するため、それぞれが自社で保管する契約書の印紙税を各自で負担します。
実務上の取り扱い
実務上は、どちらの当事者が印紙代を負担するかについて特段の法律上の定めはありません。契約当事者間の取り決めによって決めることができます。
一般的には、請負業者が契約書を作成・提出するケースが多いため、施工業者側が印紙代を負担することが多いです。
印紙税に関するよくある質問
Q. 工事注文請書にも印紙は必要ですか?
はい、必要です。工事注文請書は、受注側が「今回の工事を引き受けます」という意思を文書化したもので、契約の成立を証する書類とみなされます。印紙税法では、当事者一方のみが作成する文書も課税文書に該当するため、印紙の貼付が必要です。
Q. 収入印紙はどこで購入できますか?
収入印紙は以下の場所で購入できます。
- 郵便局(全種類の収入印紙を取り扱い)
- 法務局
- 役所
- コンビニ(通常200円の印紙のみ取り扱い)
高額な収入印紙が必要な場合は、郵便局で購入するのが確実です。
Q. 印紙を貼り忘れた場合、契約は無効になりますか?
いいえ、契約自体は有効です。印紙税を納付していなくても、契約書の法的効力には影響しません。ただし、過怠税という罰則が課される可能性があります。
Q. 間違えて高額の印紙を貼ってしまった場合はどうなりますか?
所轄税務署長に「印紙税過誤納確認申請書」を提出し、過誤納の事実が確認されれば、印紙税の還付を受けることができます。申請の際は、誤った収入印紙が貼付された契約書の原本を提示する必要があります。
Q. 軽減措置の期限が過ぎるとどうなりますか?
令和9年(2027年)3月31日以降に作成される契約書には、原則として本則税率が適用されます。ただし、これまでも景気動向などに応じて延長されてきた経緯があるため、最新の情報を確認することをおすすめします。
まとめ
この記事では、工事請負契約書の印紙税について解説しました。要点をまとめると以下のとおりです。
- 工事請負契約書は第2号文書(請負に関する契約書)に該当し、印紙税の課税対象
- 建設工事請負契約書には軽減措置が適用され、令和9年3月31日まで税率が引き下げられている
- 軽減措置の対象は契約金額100万円超の契約書
- 収入印紙を貼付したら必ず消印を押す必要がある
- 印紙の未貼付や消印忘れには過怠税(最大3倍)が課される
- 電子契約を利用すれば印紙税は不要
- 契約金額を税抜表示にすることで節税可能
印紙税は正しく理解して対応すれば、適切に節税することも可能です。特に電子契約の導入は、印紙税削減だけでなく業務効率化にもつながるため、積極的に検討することをおすすめします。
印紙税について不明な点がある場合は、税務署の相談窓口や税理士に相談することをおすすめします。

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