「工事請負契約書とは何か」「どのような項目を記載すればいいのか」「作成時に注意すべき点は何か」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、工事請負契約書の基本から詳しく解説します。契約書の構成、建設業法で定められた必須記載項目、作成時の注意点まで、工事請負契約書に関する知識を網羅的に紹介します。トラブルを防ぐ契約書作成のポイントを押さえ、安心して工事を進められるようにしましょう。
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工事請負契約書とは?
工事請負契約書とは、注文者(発注者)が請負人(受注者)に対して工事を発注し、請負人がこれを受注する内容の契約書です。住宅の新築工事やリフォーム工事など、建物に関する工事を行う際に、発注者と受注者の間で取り交わします。
工事請負契約は、民法上の「請負契約」に該当します。請負契約とは、当事者の一方が「仕事を完成させること」を約束し、相手方が「仕事の完成に対して報酬を支払うこと」を約束する契約です。
工事請負契約書が必要なケース
工事請負契約書は、以下のような工事の受発注を行う際に締結されます。
- 新築工事(住宅、ビル、店舗など)
- 増改築工事
- リフォーム・改装工事
- 外構の整備工事
- 修繕工事
- 解体工事
工事請負契約書の作成は法律で義務化
一般的な契約は口頭でも成立しますが、工事請負契約については建設業法第19条により、契約書の作成・交付が義務付けられています。
建設業法第19条では、次のように規定されています。
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
つまり、工事請負契約書を締結せずに工事を行うことは、建設業法違反となります。
契約書を作成しないとどうなる?
工事請負契約書を作成せずに工事を請け負った場合、以下のような処分を受ける可能性があります。
- 国土交通大臣または都道府県知事からの指示処分
- 指示に従わない場合は営業停止処分
- 状況が重い場合は建設業許可の取り消し
なお、契約書がなくても口頭での契約自体は民法上有効ですが、建設業法違反であることに変わりはありません。必ず工事請負契約書を作成しましょう。
工事請負契約書を作成する目的
工事請負契約書を作成する目的は、主に以下の3つです。
目的①:工事内容を明確化しトラブルを予防する
工事請負契約書では、実施する工事の内容や建築する建物の仕様などを細かく決めます。特に建物の仕様については、以下のような事項を詳細に記載します。
- 使用する建築部材の種類・品番等
- 満たすべき防火性能・耐震性能等の水準
- 造作家具の設置場所・仕様等
- 壁面・土間等の加工方法
契約内容を書面化することで、発注者と受注者の認識の違いによる「言った・言わない」のトラブルを防止できます。
目的②:トラブル発生時のルールを決めておく
建設工事では、予期せぬトラブルが発生することがあります。工事請負契約書にトラブル発生時の対応ルールを記載しておくことで、実際にトラブルが起きた際も速やかに対応できます。
例えば、以下のような事項を事前に取り決めておきます。
- 工事の変更・追加があった場合の対応
- 工期が延長した場合の対応
- 天災による損害の負担
- 第三者に損害を与えた場合の対応
目的③:訴訟時の証拠資料として活用する
万が一訴訟に発展した場合、工事請負契約書は証拠書類として活用できます。契約内容が詳細に記載された契約書があれば、裁判においても合意事項を証明できます。
目的④:対等な契約関係を築く
建設業における請負契約では、資金や発注権限を持つ発注者の方が交渉上優位に立つことが少なくありません。工事請負契約書を作成することで、発注者・受注者の双方にとって公平な契約関係を築くことができます。
口頭や不完全な契約では、受注者側が一方的に不利な条件を受け入れざるを得ない場面もあります。契約書を明文化することで、対等な関係性を担保できます。
工事請負契約書の基本構成
工事請負契約書は、一般的に以下の書類で構成されます。
工事請負契約書の構成書類
| 書類名 | 内容 |
|---|---|
| 工事請負契約書 | 契約当事者、工事名、工期、請負代金など基本事項を記載 |
| 工事請負契約約款 | 契約に関する詳細なルール・条件を定めた書類 |
| 見積書 | 工事費用の内訳を示した書類 |
| 設計図書 | 設計図、仕様書、工事内容の詳細 |
契約を結ぶ際には、工事請負契約書だけでなく、これらの書類を合わせて提出するのが一般的です。
工事請負契約書と約款の違い
工事請負契約書には、工事名、工事場所、工期、請負代金など、工事ごとに変わる基本事項を記載します。
工事請負契約約款には、契約解除の条件、損害賠償、紛争解決方法など、どの工事にも共通する詳細なルールを記載します。
国土交通省では「建設工事標準請負契約約款」を公開しており、多くの工事請負契約書でこの約款が適用されています。
工事請負契約書の法定記載事項(16項目)
建設業法第19条により、工事請負契約書には16項目の記載が義務付けられています。これらは「法定記載事項」と呼ばれ、必ず記載しなければなりません。
法定記載事項一覧
| 記載事項 | 内容 |
|---|---|
| 工事内容 | 施工場所、構造、規模、工法など工事の詳細 |
| 請負代金の額 | 契約金額(消費税の記載方法にも注意) |
| 工事着手の時期 | 工事を開始する日 |
| 工事完成の時期 | 工事が完了する日(工期) |
| 工事を施工しない日・時間帯 | 休日や作業時間の制限(2020年改正で追加) |
| 前払金・出来形払いの定め | 前払金や中間払いがある場合の支払時期・方法 |
| 設計変更等の場合の対応 | 工期変更、代金変更、損害負担の算定方法 |
| 天災等の場合の対応 | 不可抗力による損害の負担と算定方法 |
| 価格変動時の対応 | 物価変動時の代金・工事内容の変更に関する定め |
| 第三者への損害賠償 | 工事中に第三者が損害を受けた場合の負担 |
| 資材提供・機械貸与 | 発注者が資材・機械を提供する場合の内容と方法 |
| 検査・引渡しの時期 | 竣工検査の時期・方法、引渡しの時期 |
| 引渡し後の支払い | 引渡し後の請負代金の支払時期・方法 |
| 契約不適合責任 | 工事目的物が契約内容に適合しない場合の対応 |
| 紛争の解決方法 | 紛争が生じた場合の解決方法(調停・仲裁など) |
| その他国土交通省令で定める事項 | その他必要な事項 |
2020年改正で追加された項目
2020年10月の建設業法改正により、法定記載事項が14項目から16項目に増えました。
追加された項目:
- 「工事を施工しない日・時間帯」
- 「その他国土交通省令で定める事項」
これは建設業における長時間労働を是正するために追加されたものです。契約書を作成する際は、最新の法改正内容を反映しているか確認しましょう。
法定記載事項以外に記載すべき項目
法定記載事項以外にも、トラブルを防ぐために以下の項目を記載することが推奨されます。
追加で記載すべき主な項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 現場代理人に関する定め | 現場代理人の権限範囲、対応フロー |
| 下請けに関する定め | 下請けを利用する場合の同意取得、責任分担 |
| 近隣対応に関する定め | 近隣への説明やクレーム対応の役割分担 |
| 地中障害物に関する定め | 地中障害物が発覚した際の費用負担 |
| 反社会勢力排除条項 | 反社会勢力ではないことの表明 |
| 秘密保持条項 | 契約に関する秘密情報の保護 |
| 契約解除条項 | 契約解除の条件と手続き |
工事請負契約書の作成方法

工事請負契約書を作成する一般的な手順を解説します。
手順①:大枠の事項を取り決める
まず、発注者と受注者の間で、工事請負に関する大枠の事項を取り決めます。最低限取り決めておくべき事項は以下の4点です。
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工期
- 支払い方法
手順②:契約書案を作成する
大枠で取り決めた事項をもとに、工事請負契約書の案を作成します。国土交通省のホームページで公開されている「建設工事標準請負契約約款」を参考にすることも有効です。
契約書は通常、受注者(建設会社)が作成することが多いですが、法律上はどちらが作成しても問題ありません。
手順③:詳細な条件交渉をする
契約書案をもとに、発注者と受注者で詳細な条件交渉を行います。双方が納得するまで条件を調整し、最終的な契約内容を確定させます。
手順④:署名・押印して交付する
契約内容が確定したら、契約書に署名または記名押印し、相互に交付します。契約書の交付は、原則として工事の着工前に行う必要があります。
電子契約での締結も可能
2001年4月の建設業法改正により、工事請負契約書は電子契約での締結も認められています。電子契約を利用すれば、印紙税が不要になるなどのメリットがあります。
工事請負契約書作成時の注意点
工事請負契約書を作成する際の主な注意点を解説します。
注意点①:工事着工前に契約書を交付する
国土交通省のガイドラインでは、原則として工事の着工前に書面交付を済ませることが求められています。着工後に契約内容について齟齬が生じることを防ぐためにも、必ず着工前に契約書を作成・交付しましょう。
注意点②:工事内容の変更・追加時は再度契約書を作成する
工事内容に変更や追加が発生した場合は、改めて工事請負契約書(変更契約書)を作成する必要があります。小規模な追加変更であっても、その都度必ず書類を作成しましょう。
追加変更においても発注者・受注者の認識の違いによるトラブルが起こりやすいため、書面化が重要です。
注意点③:工期は現実的に設定する
工期は天候や資材の遅れなども考慮し、余裕を持った日程を設定しましょう。極端に短い工期は、建設業法第19条の5により請負契約を締結できない可能性があります。
また、休工日や施工時間帯の取り決めも明文化しておくことで、近隣住民への影響を避けられます。
注意点④:請負代金の記載方法に注意する
請負代金については、消費税額を明確に記載することが重要です。消費税等の税額が契約書上で不明確な場合、印紙税の計算時に税込金額で計算されてしまうことがあります。
印紙税の観点からも、「本体価格○○円、消費税○○円、合計○○円」のように明確に記載しましょう。
注意点⑤:工事中の損害負担を明記する
工事中に発生した損害について、誰がどのように負担するかを明記しておくことが重要です。特に以下の点を明確にしましょう。
- 天災等による損害の負担割合
- 第三者への損害賠償の負担
- 地中障害物が発覚した際の費用負担
注意点⑥:近隣対応の役割分担を明記する
工事に際しては、近隣住民への説明やクレーム対応が必要になることがあります。発注者と受注者のどちらが対応するかを明確にしておくことで、トラブル発生時にスムーズに対応できます。
注意点⑦:契約書の控えを保管する
締結した工事請負契約書は、控えを保管しておきましょう。建設業法施行規則第28条では、建設業者は営業所ごとに帳簿を備えつけて5年間保存することが義務付けられています。
工事請負契約書の印紙税
工事請負契約書は印紙税法で定められた「課税文書」に該当するため、収入印紙の貼付が必要です。印紙税額は契約金額によって異なります。
印紙税額一覧
| 契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上100万円以下 | 200円 |
| 100万円超200万円以下 | 400円 |
| 200万円超300万円以下 | 1,000円 |
| 300万円超500万円以下 | 2,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 1万円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 6万円 |
| 1億円超5億円以下 | 10万円 |
| 5億円超10億円以下 | 20万円 |
| 10億円超50億円以下 | 40万円 |
| 50億円超 | 60万円 |
電子契約なら印紙税は不要
工事請負契約書を電子契約で締結した場合、印紙税は不要になります。請負金額が大きい工事では、電子契約によって大幅なコスト削減が可能です。
注文書・請書による契約は可能?
実際の取引現場では、建設業者と注文者間で「注文書」「請書」の形態で請負契約を締結していることが多いです。
一定の要件を満たせば、注文書・請書を工事請負契約書に代用することができます。
代用できる方法
- 両者間で基本契約書を締結したうえで、個々の契約については注文書・請書を交換する
- 注文書と請書のそれぞれに基本契約約款を添付(印刷)する
いずれの場合も、法定記載事項(16項目)を漏れなく記載し、「注文書および請書に記載されている事項以外については、基本契約の定めによる」と明記する必要があります。
まとめ
工事請負契約書は、建設工事を円滑に進め、発注者・受注者双方の権利を守るための重要な書類です。建設業法により作成が義務付けられており、法定記載事項を漏れなく記載する必要があります。
本記事のポイント:
- 工事請負契約書は建設業法第19条により作成が義務
- 法定記載事項は16項目(2020年改正で追加)
- 契約書は原則として工事着工前に交付する
- 工事内容の変更・追加時は再度契約書を作成
- 電子契約なら印紙税が不要
- 契約書の控えは5年間保管する
適切な工事請負契約書を作成し、トラブルのない円滑な工事を進めましょう。
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