「ネットワーク式工程表って何?バーチャートやガントチャートとどう違うの?」「PERT図やクリティカルパスの考え方がよくわからない」「複雑な工事の工程管理をもっと効率的にしたい」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。

本記事では、ネットワーク式工程表の基礎から実践的な書き方まで、初心者にもわかりやすく徹底解説します。PERT図やクリティカルパスの考え方、他の工程表との違い、建設現場での活用方法まで紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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ネットワーク式工程表とは?基本概念を理解する
まず、ネットワーク式工程表の基本概念を押さえましょう。
ネットワーク式工程表の定義
ネットワーク式工程表とは、プロジェクトの各作業を節点(ノード)や矢印(アロー)で表現し、作業間の論理的な関係を図式化した工程管理ツールです。
従来のバーチャートやガントチャートでは表現しにくかった「この作業が終わらないと次の作業に着手できない」といった依存関係を、視覚的にわかりやすく把握できます。建設業、製造業、ITプロジェクトなど、複数の作業が相互に関連するプロジェクトで広く活用されています。
ネットワーク式工程表が重要な理由
建設現場では多くの業者や作業員が関わり、複数の工程が同時並行で進みます。どの作業が遅れるとプロジェクト全体に影響するのか、どこに余裕があるのか——これらを正確に把握することは、工程管理において非常に重要です。
ネットワーク式工程表を活用することで、以下のことが可能になります。
- 作業間の依存関係が明確になる:どの作業が先行し、どの作業が後続するかがわかる
- クリティカルパスを特定できる:プロジェクト全体の工期を決定する最重要経路がわかる
- 余裕時間(フロート)を計算できる:どの作業にどれだけの余裕があるかを数値で把握できる
- リソースの最適配分ができる:人員・機材を効果的に投入できる
ネットワーク式工程表の歴史
ネットワーク式工程表の代表的な手法であるPERT(Program Evaluation and Review Technique)は、1958年にアメリカ海軍のポラリス計画(潜水艦発射弾道ミサイルの開発)のために開発されました。
同時期に、建設業界ではCPM(Critical Path Method:クリティカルパス法)が開発され、現在ではこれらの手法が統合され、建設・製造・ITなど幅広い分野で標準的なプロジェクト管理手法として使われています。
ネットワーク式工程表と他の工程表との違い
工程表にはいくつかの種類があり、それぞれ特徴が異なります。ネットワーク式工程表と他の工程表の違いを理解しましょう。
バーチャート工程表との違い
バーチャート工程表は、縦軸に作業項目、横軸に日付を配置し、各作業の開始日と終了日を横棒(バー)で示す工程表です。建設現場で最も一般的に使われています。
バーチャートの特徴:
- 作成が簡単で、誰でも直感的に理解できる
- 各作業のスケジュールや全体の進捗状況を把握しやすい
- 修正が容易で、計画変更にも対応しやすい
バーチャートの限界:
- 作業間の依存関係が表現しにくい
- クリティカルパスの把握ができない
- 複雑な工程が絡み合う大規模工事には不向き
ガントチャート工程表との違い
ガントチャート工程表は、縦軸に作業項目、横軸に進捗率を配置し、各作業の進行状況をバーで示す工程表です。バーチャートと似ていますが、進捗管理に特化している点が異なります。
ガントチャートの特徴:
- 作業の進捗状況を視覚的に確認できる
- 複数の作業を同時並行で管理しやすい
- 遅れが発生している作業を一目で把握できる
ガントチャートの限界:
- 作業間の依存関係の表現が限定的
- 「いつ始まっていつ終わるか」が把握しにくい
- フロート(余裕時間)の計算ができない
ネットワーク式工程表の優位性
ネットワーク式工程表は、バーチャートやガントチャートでは表現できない作業間の依存関係とその影響度を明確に把握できる点で優れています。
ネットワーク式工程表の強み:
- 作業間の論理的な依存関係を視覚的に表現できる
- クリティカルパスの特定・計算が可能
- トータルフロート・フリーフロートなどの余裕時間を算出できる
- 遅延が工期に与える影響を定量的に評価できる
実務では、プロジェクトの複雑さや管理目的に応じて使い分けることが重要です。依存関係が複雑で工期短縮が必要な場合はネットワーク式工程表を、日常の進捗管理や関係者への報告にはバーチャートやガントチャートを活用するなど、両者を併用することで効果的なプロジェクト管理が可能になります。
ネットワーク式工程表の2つの表現方法
ネットワーク式工程表には、主にADM(アロー・ダイアグラム法)とPDM(プレシデンス・ダイアグラム法)の2つの表現方法があります。
ADM(アロー・ダイアグラム法)とは
ADM(Arrow Diagram Method)は、作業を矢印(アロー)で、作業の開始・終了点を円(ノード)で表現する手法です。日本の建設業界では1級土木施工管理技士などの資格試験でも出題される標準的な手法として位置づけられています。
ADMの構成要素:
- イベント(結合点):○印で表現。作業の開始点や終了点を示す
- アクティビティ(作業):矢印で表現。実際の作業内容を示す
- ダミー作業:点線の矢印で表現。依存関係のみを示す(所要時間は0)
ADMの特徴:
- 作業の流れが視覚的に分かりやすい
- 計算が比較的単純
- 伝統的な手法であるため教材や事例が多い
- 複雑な依存関係を表現する際にダミー作業が必要になる場合がある
PDM(プレシデンス・ダイアグラム法)とは
PDM(Precedence Diagram Method)は、作業を四角形のボックス(ノード)で表現し、依存関係を矢印で示す手法です。各ボックスには作業名や所要時間に加えて、最早開始時刻や最遅開始時刻などの情報も記載できます。
PDMの最大の特徴は、4種類の依存関係を表現できることです。
- FS(Finish to Start):先行作業の完了後に後続作業が開始(最も一般的)
- SS(Start to Start):両作業が同時に開始できる関係
- FF(Finish to Finish):両作業が同時に完了する関係
- SF(Start to Finish):先行作業の開始により後続作業が完了する関係
このような複雑な依存関係の表現能力により、PDMは大規模で複雑なプロジェクトに適しており、現在多くのプロジェクト管理ソフトウェアで採用されています。
ADMとPDMの使い分け
どちらを採用すべきかは、プロジェクトの規模、複雑さ、利用目的、組織の慣習などを総合的に考慮して決定します。
- ADMが適している場合:小〜中規模プロジェクト、依存関係が単純(主にFS関係)、手計算やExcelでの管理
- PDMが適している場合:中〜大規模プロジェクト、依存関係が複雑(SS、FF、SF関係含む)、専用ソフトウェアでの管理
PERT図とは?基本用語を理解する
PERT図(Program Evaluation and Review Technique)は、ネットワーク式工程表の代表的な形式です。ネットワーク式工程表を効果的に活用するためには、基本用語を正確に理解することが不可欠です。
イベント(結合点)
イベントとは、PERT図において○印で表現される、作業の開始点や終了点のことです。基本的にはアルファベットや数字で管理しますが、「開始」や「完了」などの状態を記入する場合もあります。
アクティビティ(作業)
アクティビティとは、実際の作業内容を表す矢印のことです。通常、矢印の上に作業名を、矢印の下に所要時間(工数)を記載します。
ダミー作業
ダミー作業とは、点線の矢印で表現される、実際の作業を伴わない依存関係のことです。矢印元の状態にならなければ矢印先の作業を進められないことを示します。所要時間は0として扱います。
ダミー作業が必要になる主なケース:
- 並行作業がある場合
- 同一のイベント間に複数の作業を記載したい場合
最早開始時刻・最早完了時刻
最早開始時刻(ES:Earliest Start)は、すべての先行作業が完了した後で、その作業を最も早く開始できる時刻を表します。最早完了時刻(EF:Earliest Finish)は「最早開始時刻+作業期間」で計算されます。
最遅開始時刻・最遅完了時刻
最遅開始時刻(LS:Latest Start)は、プロジェクト全体の完了予定に遅れを生じさせることなく、その作業を最も遅く開始できる時刻を示します。最遅完了時刻(LF:Latest Finish)は後続作業の最遅開始時刻から決定されます。
トータルフロート(TF)
トータルフロートとは、プロジェクト全体の完了時期に影響を与えずに、その作業を遅らせることができる最大の時間です。「最遅開始時刻-最早開始時刻」または「最遅完了時刻-最早完了時刻」で計算します。
トータルフロートが0の作業は、クリティカルパス上にあり、一切の遅れが許されません。
フリーフロート(FF)
フリーフロートとは、後続作業に影響を与えずに、その作業を遅らせることができる時間です。「後続作業の最早開始時刻-当該作業の最早完了時刻」で計算します。
トータルフロートとフリーフロートの違い:
- トータルフロート:スケジュール全体の余裕
- フリーフロート:次の工程までの余裕
- フリーフロートは必ずトータルフロート以下(FF≦TF)
クリティカルパスとは?その重要性

クリティカルパスは、ネットワーク式工程表において最も重要な概念です。
クリティカルパスの定義
クリティカルパスとは、プロジェクトの開始から完了まで、トータルフロートがゼロの作業で構成される経路のことです。言い換えれば、「この経路上の作業が遅れたら、プロジェクト全体が遅れる」という最重要経路です。
クリティカルパス上の作業には余裕(フロート)がなく、1日の遅れがそのまま全体の遅れにつながります。
クリティカルパスを把握するメリット
クリティカルパスを特定することで、以下のメリットが得られます。
- 優先管理すべき作業が明確になる:限られたリソースを効率的に配分できる
- 遅延リスクを事前に予測できる:問題が起きる前に対策を打てる
- 工期短縮の糸口が見つかる:どこを短縮すれば効果的かがわかる
- 関係者との意識統一ができる:全員が同じ認識を持って進行できる
クリティカルパスの求め方
クリティカルパスを求める手順は以下の通りです。
- 順行法(フォワードパス):開始点から各イベントの最早開始時刻を計算
- 逆算法(バックワードパス):終了点から各イベントの最遅完了時刻を計算
- トータルフロートを計算:最遅完了時刻-最早開始時刻-所要日数
- フロートが0の作業を特定:これらをつないだ経路がクリティカルパス
ネットワーク式工程表の作成手順
実際にネットワーク式工程表を作成する手順を、6つのステップで解説します。
ステップ1:作業(タスク)の洗い出し
まず、プロジェクトに必要なすべての作業を洗い出します。
WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)を活用すると、ツリー状に整理でき、タスクの漏れを防げます。作業の粒度は「1日〜2週間程度で完了する単位」が目安です。
建設現場での例:
- 仮設工事(足場設置、仮囲い設置など)
- 基礎工事(掘削、配筋、コンクリート打設など)
- 躯体工事(鉄骨建方、床工事など)
- 設備工事(電気、給排水、空調など)
- 仕上げ工事(内装、外装など)
ステップ2:作業の依存関係を整理
次に、各作業の依存関係(前後関係)を整理します。
以下の点を明確にしましょう。
- どの作業が終わらないと次に進めないか(先行作業)
- どの作業は同時並行で進められるか(並行作業)
- どの作業が独立しているか
依存関係には、技術的制約(作業の性質上必然的に生じる関係)、リソース制約(同一の資源が必要な場合)、外部制約(許認可の取得、資材の納期など)があります。
ステップ3:各作業の所要日数を見積もる
各作業に必要な日数を見積もります。
過去の実績や経験をもとに、現実的な所要日数を設定しましょう。不確実性が高い場合は、PERTの三点見積法を活用することも有効です。
三点見積法の計算式:
期待値 = (楽観値 + 4 × 最可能値 + 悲観値)÷ 6
ステップ4:ネットワーク図を作成
ここまでの情報をもとに、ネットワーク図を作成します。
作成のルール(ADMの場合):
- 作業を矢線(→)で、開始・終了点を丸印(○)で表す
- 作業名は矢線の上に、所要日数は矢線の下に記入
- 矢線は左から右へ進行方向に向ける
- イベント番号は作業が進むほど大きくする
- 依存関係のみを示す場合は点線(ダミー)を使用
- 同一のイベント間には2つ以上のアクティビティを記入しない
- ループ(循環関係)を作らない
ステップ5:クリティカルパスを計算・特定
ネットワーク図が完成したら、クリティカルパスを計算・特定します。
計算手順:
- 順行法で最早開始時刻・最早完了時刻を計算
- 逆算法で最遅開始時刻・最遅完了時刻を計算
- 各作業のトータルフロート・フリーフロートを計算
- トータルフロートが0の作業を結んだ経路がクリティカルパス
ステップ6:工程表を完成・共有
最後に、工程表を完成させ、関係者と共有します。
- クリティカルパスを赤色などで強調表示
- フロートがある作業も余裕日数を明記
- マイルストーン(重要な節目)を設定
- 関係者全員に共有し、クリティカルパスの重要性を説明
ネットワーク式工程表のメリット・デメリット

ネットワーク式工程表を導入する前に、メリットとデメリットを理解しておきましょう。
メリット
①作業間の依存関係が明確になる
どの作業が先行し、どの作業が後続するかが視覚的にわかります。
②クリティカルパスを特定できる
プロジェクト全体に最も影響を与える作業を優先的に管理できます。
③余裕時間を数値で把握できる
どの作業にどれだけの余裕があるかを定量的に評価できます。
④工期短縮の糸口が見つかる
クリティカルパス上の作業を短縮すれば、効果的に全体工期を短縮できます。
⑤リソースの最適配分ができる
フロートがある作業からリソースを他の重要作業に振り向けることができます。
デメリット
①作成に専門知識と時間が必要
バーチャートに比べて作成のハードルが高く、習得に時間がかかります。
②複雑なプロジェクトでは図が煩雑になる
作業数が増えるとノード・アローが増え、見づらくなりがちです。
③関係者への説明に工夫が必要
ネットワーク図に馴染みのない人への説明には時間がかかります。
④定期的な更新が必要
設計変更や追加工事が発生した場合、クリティカルパスの再計算が必要です。
建設現場での活用事例
ネットワーク式工程表を活用した工程管理の具体的な活用事例を紹介します。
事例①:工期短縮(クラッシング・ファストトラッキング)
ネットワーク式工程表を活用した工期短縮では、クラッシング(期間短縮)とファストトラッキング(作業の並行化)が効果的です。
クラッシングでは、追加リソースの投入や作業方法の改善により、クリティカルパス上の作業期間を短縮します。ファストトラッキングでは、本来は順次実施する作業を部分的に並行して実施することで全体の工期を短縮します。
事例②:行政許認可のリードタイム管理
建築確認申請や開発許可など、行政の許認可業務は時間がかかり、自社の努力では短縮が難しい作業です。
これらの作業はクリティカルパスに含まれやすいため、早めに申請を行い、許認可待ちの間に並行して進められる作業を特定しておくことが重要です。
事例③:資材調達のボトルネック解消
特注品や納期の長い資材は、調達がクリティカルパスになることがあります。
クリティカルパスを把握していれば、早期発注の必要性が明確になり、代替品の検討や複数の調達先の確保といった対策を事前に講じることができます。
事例④:複数工程の同時進行
クリティカルパスを軸に工程表を組むと、並行して進められる工程も見えてきます。
たとえば、1階の躯体工事と地下の設備工事を同時に進めたり、設計が確定している部分から先に解体工事を開始したりすることで、工期短縮やコスト削減を図ることができます。
ネットワーク式工程表作成に役立つツール
ネットワーク式工程表の作成・管理には、以下のようなツールが役立ちます。
エクセル
エクセルでもネットワーク式工程表は作成できますが、作業間の依存関係を表現したり、クリティカルパスを自動計算したりするには、それなりの知識とスキルが必要です。
メリット:導入コストなし、自由にカスタマイズ可能
デメリット:リアルタイム共有が難しい、手動計算が必要
専用のプロジェクト管理ソフト
Microsoft Project、Smartsheet、Asanaなどの専用ソフトは、クリティカルパスの自動計算・表示機能を備えています。
メリット:クリティカルパスの自動計算、複数の表示形式に対応
デメリット:導入コスト、操作習得が必要
施工管理アプリ
建設業に特化した施工管理アプリは、現場での使いやすさとリアルタイム共有に優れています。
メリット:スマホ・タブレットで現場から更新可能、関係者とリアルタイム共有
デメリット:月額費用が発生
まとめ
ネットワーク式工程表は、複雑なプロジェクトの依存関係を明確化し、クリティカルパスの特定による効果的な管理を可能にする強力なツールです。
本記事のポイント:
- ネットワーク式工程表とは、作業間の依存関係を図式化した工程管理ツール
- バーチャートやガントチャートでは表現できないクリティカルパスやフロートを把握できる
- ADM(アロー図法)とPDM(ノード図法)の2つの表現方法がある
- PERT図の基本用語(イベント、アクティビティ、ダミー、フロートなど)を理解することが重要
- クリティカルパスを特定することで、優先管理すべき作業が明確になる
- 作成には専門知識が必要だが、プロジェクト管理の質を格段に向上させる
ネットワーク式工程表を正しく理解し、活用することで、複雑なプロジェクトでも的確な判断と効率的なスケジュール管理が実現できます。
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