「人工代って何?」「人工の計算方法がわからない」「人工出しって違法じゃないの?」と疑問に思っている建設業の方も多いのではないでしょうか。

人工代は建設業における人件費計算の基本となる重要な概念です。正しく理解することで、見積り精度の向上やコスト管理の改善につながります。
本記事では、人工代・人工出しとは何かを初心者にもわかりやすく解説します。計算方法や職種別の相場、請求書の書き方まで紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
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人工(にんく)とは?
まず、建設業で使われる「人工」の基本を押さえましょう。
人工の定義
人工(にんく)とは、作業員1人が1日(8時間)でこなせる作業量を表す単位のことです。
建設業界では、工事の見積りや原価計算、工程管理など様々な場面でこの「人工」という単位が使われています。
【人工の基本】
- 1人工 = 作業員1人 × 1日(8時間)の作業量
- 2人工 = 作業員1人 × 2日 または 作業員2人 × 1日
- 0.5人工(半人工) = 作業員1人 × 半日(4時間)の作業量
なぜ「人工」という単位を使うのか
一般的なアルバイトであれば、「時給 × 労働時間」で人件費を計算できます。しかし、建設工事では単純に時間だけで計算できない理由があります。
理由1:作業の技術や難易度が異なる
同じ8時間働いても、熟練工と見習工では作業量が異なります。また、工種によって必要な技術レベルも違います。
理由2:見積りの根拠として使いやすい
「この工事には〇人工必要」という形で表現することで、発注者に対して労務費の根拠を明確に示すことができます。
理由3:工程管理に活用できる
「この作業には3人工かかる」とわかれば、作業員の配置や工期の見通しを立てやすくなります。
歩掛(ぶがかり)との関係
人工を理解するには、「歩掛(ぶがかり)」という用語も知っておく必要があります。
歩掛とは、工事における1つの作業にかかる手間を数値化したものです。
【歩掛の例】
【塗装工事の歩掛例】
外壁塗装:0.05人工/m²
→ 100m²の外壁塗装には 100 × 0.05 = 5人工が必要
【型枠工事の歩掛例】
型枠組立:0.08人工/m²
→ 50m²の型枠組立には 50 × 0.08 = 4人工が必要
歩掛は、国土交通省の「公共建築工事標準単価積算基準」などで標準値が公表されています。これを参考に、自社の実績を踏まえて人工を算出します。
人工代(にんくだい)とは?
次に、人工代について解説します。
人工代の定義
人工代(にんくだい)とは、作業員1人が1日(8時間)働いた際に発生する人件費のことです。
「一人工(いちにんく)」「1人区」とも呼ばれ、工事の見積りやコスト管理において基本となる指標です。
【人工と人工代の違い】
| 用語 | 意味 | 単位 |
|---|---|---|
| 人工 | 作業員1人が1日でこなせる作業量 | 人工(単位) |
| 人工代 | 1人工あたりの人件費 | 円/人工 |
人工代に含まれるもの・含まれないもの
人工代は、あくまで1日8時間の基本労働に対する賃金です。以下の費用は含まれていません。
| 含まれるもの | 含まれないもの |
|---|---|
| 基本給相当額 | 時間外労働(残業)の割増賃金 |
| 基準内手当 | 休日・深夜労働の割増賃金 |
| 臨時の給与(日額換算) | 特殊作業手当 |
| 法定福利費(本人負担分) | 法定福利費(事業主負担分) |
| 技術料 | 交通費・宿泊費 |
重要なポイント:人工代は1日単位の金額であるため、作業時間が5時間でも8時間でも、原則として人工代は同じです。半日作業の場合は「0.5人工」として計算します。
人工出し(にんくだし)とは?
建設業界でよく聞く「人工出し」についても理解しておきましょう。
人工出しの定義
人工出し(にんくだし)とは、作業員を他社の工事現場に派遣し、1日単位で報酬を得る形態のことです。「人夫出し(にんぷだし)」「応援」「常用工事」とも呼ばれます。
通常の建設工事は「●●工事を完成させることで〇〇円」という請負契約ですが、人工出しは「作業員を1日現場に行かせることで〇〇円」という形式です。
人工出しと請負契約の違い
| 項目 | 人工出し | 請負契約 |
|---|---|---|
| 契約の目的 | 労働力の提供 | 工事の完成 |
| 報酬の単位 | 1人工いくら | 工事一式いくら |
| 指揮命令 | 派遣先(他社)が行う | 自社が行う |
| 完成責任 | 負わない | 負う |
| 建設業法上の扱い | 建設工事に該当しない | 建設工事に該当する |
人工出しの法的な注意点
重要:人工出しは、方法を誤ると違法になる可能性があります。
建設工事への労働者派遣は、労働者派遣法により原則禁止されています。人工出しが労働者派遣に該当すると判断された場合、以下の罰則が適用される可能性があります。
- 労働者派遣法違反:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 職業安定法違反:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 建設業許可への影響:欠格要件に該当し、許可取消の可能性
適法な人工出しの方法
人工出しが全て違法というわけではありません。以下の形態であれば、問題なく実施できます。
方法1:請負契約(下請契約)を締結する
他社の現場を手伝う場合でも、正式に請負契約を締結すれば問題ありません。この場合、労働者の指揮命令権は自社(出向元)が持ちます。
方法2:作業量単位で契約する
「1人工いくら」ではなく、「●m²いくら」「●トンいくら」のように作業量単位で契約すれば、工事の請負と判断される可能性が高くなります。
方法3:自社の指揮命令下で作業する
現場での指揮命令や裁量権を自社が持って施工すれば、常用契約であっても建設工事の請負に該当します。
人工代の相場【職種別・地域別】
人工代の相場は、職種や地域によって異なります。
人工代の目安となる「公共工事設計労務単価」
人工代の相場を確認する際に参考になるのが、国土交通省が毎年公表している「公共工事設計労務単価」です。
参考:国土交通省「令和7年度 公共工事設計労務単価」
この労務単価は、公共工事の積算に用いるための単価ですが、民間工事の人工代設定にも広く参考にされています。
【令和7年(2025年)3月適用の労務単価】
- 全国全職種平均:24,852円(13年連続で引き上げ)
- 主要12職種平均:23,251円
※主要12職種とは、公共工事において広く一般的に従事されている職種
職種別の人工代相場
令和6年3月適用の公共工事設計労務単価から、主な職種別の相場(全国平均)を紹介します。
| 職種 | 全国平均(円/日) | 東京(円/日) |
|---|---|---|
| 特殊作業員 | 約26,000円 | 28,300円 |
| 普通作業員 | 約22,000円 | 25,400円 |
| 軽作業員 | 約17,000円 | 19,800円 |
| とび工 | 約28,000円 | 30,800円 |
| 鉄筋工 | 約28,000円 | 31,100円 |
| 型枠工 | 約28,000円 | 32,500円 |
| 大工 | 約28,000円 | 30,600円 |
| 左官 | 約28,000円 | 30,800円 |
| 塗装工 | 約30,000円 | 32,700円 |
| 電工 | 約28,000円 | 30,100円 |
| 配管工 | 約28,000円 | 30,200円 |
| 内装工 | 約26,000円 | 27,300円 |
※出典:国土交通省「令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価」
地域別の傾向
人工代は地域によっても差があります。一般的に、以下のような傾向があります。
- 高い地域:東京、神奈川、愛知、大阪などの大都市圏
- 低い地域:地方の県(ただし近年は差が縮小傾向)
【地域別の例:普通作業員】
| 地域 | 労務単価(円/日) |
|---|---|
| 東京 | 25,400円 |
| 大阪 | 24,200円 |
| 愛知 | 23,800円 |
| 北海道 | 20,000円 |
| 福岡 | 22,100円 |
民間工事での人工代の目安
民間工事では、公共工事設計労務単価を参考にしつつ、以下の要素を考慮して人工代を設定します。
- 作業の難易度・危険度
- 職人の経験年数・技術レベル
- 資格の有無
- 現場の条件(アクセス、作業環境など)
- 繁忙期・閑散期
一般的な民間工事での人工代の目安は、15,000円〜30,000円程度が多く見られます。熟練工や特殊技術を持つ職人の場合は、これより高くなることもあります。
人工代の計算方法
人工代の具体的な計算方法を解説します。
基本の計算式
人工代の基本的な計算式は以下の通りです。
人工代 = 1人工の単価 × 人数 × 日数
計算例
【計算例1:職人1人が3日間作業する場合】
1人工の単価:25,000円
人数:1人
日数:3日
人工代 = 25,000円 × 1人 × 3日 = 75,000円
(3人工 × 25,000円 = 75,000円)
【計算例2:職人2人が5日間作業する場合】
1人工の単価:25,000円
人数:2人
日数:5日
人工代 = 25,000円 × 2人 × 5日 = 250,000円
(10人工 × 25,000円 = 250,000円)
【計算例3:半日作業の場合】
1人工の単価:25,000円
人数:1人
作業時間:半日(4時間)
人工代 = 25,000円 × 0.5人工 = 12,500円
歩掛を使った計算方法
工事の見積りでは、歩掛を使って必要な人工を算出します。
【歩掛を使った計算例】
【外壁塗装工事の人工代計算】
作業内容:外壁塗装 200m²
歩掛:0.05人工/m²
労務単価:28,000円/人工
Step1:必要人工の算出
必要人工 = 200m² × 0.05人工/m² = 10人工
Step2:人工代の算出
人工代 = 10人工 × 28,000円 = 280,000円
人工代計算の注意点
注意点1:時間外労働は別計算
人工代は8時間労働に対する賃金です。残業が発生した場合は、別途割増賃金を計算する必要があります。
【時間外労働の割増賃金】
通常の時間外労働:25%以上の割増
深夜労働(22時〜5時):25%以上の割増
休日労働:35%以上の割増
注意点2:交通費・諸経費は別途
人工代には交通費や宿泊費、諸経費は含まれていません。見積りや請求の際は、これらを別途計上する必要があります。
注意点3:熟練度による単価差
同じ職種でも、熟練工と見習工では人工代に差をつけることが一般的です。
【熟練度別の人工代例】
親方・熟練工:30,000円〜35,000円
一般職人:25,000円〜28,000円
見習工:18,000円〜22,000円
人工代の請求書の書き方
人工代を請求する際の請求書の書き方を解説します。
請求書に記載すべき項目
人工代の請求書には、以下の項目を明確に記載しましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 請求書番号 | 管理用の通し番号 |
| 請求日 | 請求書の発行日 |
| 宛名 | 発注者の会社名・担当者名 |
| 件名 | 工事名・現場名 |
| 作業内容 | 具体的な作業内容 |
| 作業日 | 作業を行った日付 |
| 人工数 | 作業人数と日数(〇人工) |
| 単価 | 1人工あたりの金額 |
| 金額 | 人工数 × 単価 |
| 小計 | 税抜き金額の合計 |
| 消費税 | 消費税額 |
| 合計金額 | 税込みの請求金額 |
| 振込先 | 銀行口座情報 |
| 支払期限 | 支払いの期日 |
請求書の記載例
【人工代の請求書記載例】
| 作業内容 | 作業日 | 人工数 | 単価 | 金額 |
|---|---|---|---|---|
| 内装工事作業 | 11/25 | 2人工 | 25,000円 | 50,000円 |
| 内装工事作業 | 11/26 | 2人工 | 25,000円 | 50,000円 |
| 内装工事作業 | 11/27 | 2人工 | 25,000円 | 50,000円 |
| 内装工事作業 | 11/28 | 1人工 | 25,000円 | 25,000円 |
| 小計 | 175,000円 | |||
| 消費税(10%) | 17,500円 | |||
| 合計金額 | 192,500円 | |||
請求書作成のポイント
ポイント1:作業内容を具体的に記載する
「人工代」だけでなく、どのような作業を行ったかを具体的に記載しましょう。後からトラブルになることを防げます。
ポイント2:作業日ごとに分けて記載する
複数日にわたる作業の場合は、日付ごとに人工数を記載すると、発注者にとってわかりやすくなります。
ポイント3:インボイス制度に対応する
2023年10月からインボイス制度が開始されています。適格請求書発行事業者の場合は、登録番号を記載する必要があります。
人工代の経理処理【外注費か給与か】
人工代の経理処理で間違えやすいポイントを解説します。
外注費と給与の違い
一人親方や常用工に支払う人工代は、「外注費」として処理するのが一般的ですが、場合によっては「給与」として処理すべきケースもあります。
| 区分 | 外注費 | 給与 |
|---|---|---|
| 契約形態 | 請負契約・業務委託契約 | 雇用契約 |
| 指揮命令 | 受けない(自己の裁量で作業) | 受ける |
| 消費税 | 課税仕入れに該当 | 不課税 |
| 源泉徴収 | 不要(一部例外あり) | 必要 |
判断のポイント
税務上、外注費か給与かは契約形態だけでなく、実態で判断されます。
【外注費と判断される要素】
- 請負契約書を締結している
- 仕事の完成に対して報酬を支払っている
- 自己の判断で作業を進めている
- 自分の道具・材料を使用している
- 他社の仕事も請け負っている
【給与と判断される要素】
- 作業時間や場所を指定されている
- 具体的な作業方法を指示されている
- 会社の道具・材料を使用している
- 他社の仕事を請け負えない
- 報酬が時間や日数に応じて固定されている
注意:外注費を給与と認定された場合、消費税と源泉所得税に対する追徴税額が発生します。判断に迷う場合は、税理士に相談することをおすすめします。
適正な人工代を設定するポイント

最後に、適正な人工代を設定するためのポイントを紹介します。
ポイント1:公共工事設計労務単価を参考にする
国土交通省が公表する労務単価は、人工代の相場を把握する上で最も信頼性の高い指標です。毎年2月頃に翌年度の単価が公表されるので、定期的にチェックしましょう。
ポイント2:地域や職種の相場を考慮する
人工代は地域や職種によって大きく異なります。自社が活動するエリアや工種の相場を把握し、適正な単価を設定しましょう。
ポイント3:法定福利費を適切に考慮する
公共工事設計労務単価には、事業主負担分の法定福利費は含まれていません。見積りや請求の際は、法定福利費を適切に計上することが重要です。
ポイント4:技術レベルで単価を設定する
熟練工と見習工で同じ単価では、熟練工の価値を適正に評価できません。技術レベルに応じた人工代を設定しましょう。
ポイント5:契約書を必ず作成する
人工代のやり取りでは、契約書(請負契約書)を作成することが重要です。口頭だけの約束では、後からトラブルになるリスクがあります。
まとめ
人工代・人工出しについて、計算方法や相場を解説しました。
本記事のポイント:
- 人工:作業員1人が1日(8時間)でこなせる作業量を表す単位
- 人工代:作業員1人が1日働いた際に発生する人件費
- 人工出し:作業員を他社の現場に派遣する形態(違法になる可能性あり)
- 計算式:人工代 = 1人工の単価 × 人数 × 日数
- 相場は国土交通省の「公共工事設計労務単価」を参考に(全国平均約24,000円)
- 請求書には作業内容・日付・人工数・単価を明確に記載
人工代は建設業における費用計算の基本です。正確な計算と適正な単価設定により、見積り精度の向上と利益確保につなげましょう。
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