067_施工費とは

施工費とは?建設業の費用内訳と原価管理の進め方

「施工費って具体的に何が含まれるの?」「原価管理をどう進めればいいのかわからない」と悩んでいませんか?

施工費とは?建設業の費用内訳と原価管理の進め方

建設業では、プロジェクトを計画どおりに完成させるために多様なコストがかかります。その中でも「施工費」は、実際の工事を行ううえで最も大きな割合を占める費用です。施工費を正しく理解し、原価管理を徹底することで、工事の採算性を高め、安定した経営基盤を築くことができます。

本記事では、施工費とは何かを明らかにし、建設業の費用内訳の構成から、原価管理の具体的な進め方、利益率を改善するポイントまでわかりやすく解説します。

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目次

施工費とは?

施工費とは、工事を行うために直接かかる費用の総称です。資材や重機の使用料から作業員の人件費、下請け工事費まで、実際に工事を進行させるうえで不可欠な要素を含みます。

建築一式工事や電気工事、土木工事など、工種ごとに施工費の内訳は異なるものの、どの分野でも欠かせない基本費用と言えます。

施工費の2つの定義

「施工費」という言葉は、使われる場面によって2つの意味で用いられることがあります。

定義内容使用場面
広義の施工費工事代金全体を指す。材料費を含む工事にかかるすべての費用契約書・見積書での工事価格表示
狭義の施工費材料費を含まない、工事作業にかかる費用のみリフォーム工事などの見積明細

本記事では、広義の施工費(工事にかかる費用全体)として解説を進めていきます。

施工費と工事原価の関係

施工費は、会計上では「工事原価」として扱われます。工事原価とは、工事で収入を得るために直接的に要したコストの総称です。建設業会計で使用される特有の勘定科目であり、一般会計の「売上原価」に相当します。

工事原価は大きく分けて以下の2種類に分類されます。

分類内容計上タイミング
完成工事原価完成して収益が確定した工事にかかった費用当該年度の損益計算書に計上
未成工事支出金まだ完成していない工事のために費やしたコスト翌年度以降に繰り越して計上

建設工事は1年以上かかることも珍しくないため、一度にすべての工事原価を経費として計上すると大幅な赤字になることがあります。未成工事支出金として繰り越すことで、収支のバランスをとっているのです。

施工費(工事原価)を構成する4つの要素

施工費(工事原価)は、「材料費」「労務費」「外注費」「経費」の4つの要素で構成されています。一般的な原価計算では材料費・労務費・経費の3要素ですが、建設業では外注費の占める割合が大きいため、独立した項目として管理されます。

1. 材料費

材料費とは、工事に使用する材料を仕入れた際に発生する費用です。工事に直接要する材料や素材、製品などが含まれます。

【材料費の具体例】

  • 木材・鉄筋・セメント・コンクリート
  • ガラス・砂利・断熱材
  • システムキッチン・住宅設備機器
  • 特定の工事で使用した工具・道具類

材料費は「直接材料費」と「間接材料費」に分けられます。

分類内容具体例
直接材料費特定の工事に直接投入される材料の費用当該建物に使用する木材・鉄筋など
間接材料費複数の工事で共通使用される材料の費用接着剤・塗料・汎用工具など

間接材料費は直接的には工事原価に算入せず、複数の現場で按分して計上します。

2. 労務費

労務費とは、現場の作業員に支払う給料や賃金、手当などを指します。工事にかかる労働力を得るための費用であり、アルバイトや正社員など雇用形態に関係なく含まれます。

【労務費に含まれるもの】

  • 作業員の給料・賃金・賞与
  • 各種手当(残業手当・資格手当など)
  • 社会保険料(法定福利費)
  • 退職金引当金

【労務費に含まれないもの】

  • 現場代理人(現場監督)の給料
  • 現場事務所の事務員に支払う給料

現場管理者など直接作業に関わらない人の給与は、後述する「経費」として処理されます。

3. 外注費

外注費とは、工事の施工における工種・工程の一部を他の業者に発注するための費用です。建設業では専門工事を外部に委託することが多いため、工事原価の中で大きな割合を占めます。

【外注費の具体例】

  • 電気工事の専門業者への発注費用
  • 配管工事の専門業者への発注費用
  • 内装工事の下請け業者への発注費用
  • 左官工事・塗装工事の外注費用

【外注費と労務費の区分】

外注費と労務費の境目はあいまいになりやすいため、注意が必要です。

ケース計上先
作業全体(材料込み)を外部業者に委託外注費
材料は自社で仕入れ、作業のみ外注労務費(労務外注費)
他社から作業員を派遣してもらう労務費(労務外注費)

4. 経費

経費とは、材料費・労務費・外注費のいずれにも該当しない、工事に必要なその他の費用です。工事に直接関係する支出で、他の3つの費用に分類できないものが該当します。

【経費の具体例】

  • 水道光熱費(工事現場で使用した電気・水道代)
  • 機械経費(重機の使用料・メンテナンス費用)
  • 減価償却費(高価な機材の償却費)
  • 通信交通費(駐車場代・ガソリン代)
  • 設計費
  • 保険料・警備費用
  • 現場代理人・現場事務員の給料

経費は「直接経費」と「間接経費」に分けられます。

分類内容具体例
直接経費特定の工事に紐づけられる経費特許使用料・機械経費・工事用電力料
間接経費複数の工事に割り振る経費事務所の光熱費・現場管理費

間接経費は特定の工事への使用度合いに応じて、各工事に按分して計上することが必要です。

建設業の費用構成【工事価格の全体像】

施工費(工事原価)は、工事価格全体の中でどのような位置づけにあるのでしょうか。建設業の費用構成を理解することで、原価管理の全体像が見えてきます。

工事価格の構成図

工事価格は、大きく分けて「直接工事費」と「間接工事費(共通費)」で構成されます。

工事価格
├── 工事原価
│   ├── 直接工事費(純工事費)
│   │   ├── 材料費
│   │   ├── 労務費
│   │   ├── 外注費
│   │   └── 直接経費
│   └── 間接工事費(共通費)
│       ├── 共通仮設費
│       └── 現場管理費
└── 一般管理費等(会社経費・利益)

直接工事費と間接工事費の違い

区分内容具体例
直接工事費実際の工事作業に直接かかる費用材料費・労務費・外注費・直接経費
間接工事費工事全体を運営・管理するための費用共通仮設費・現場管理費

間接工事費は、公共工事では「共通費」、民間工事では「諸経費」と呼ばれることもあります。

共通仮設費の内訳

共通仮設費とは、工事全体を進めるために必要な仮設物や設備にかかる費用です。

  • 準備費:調査・測量・整地・道路占有準備
  • 仮設建物費:現場事務所・監理事務所・倉庫・休憩所
  • 工事施設費:仮囲い・工事用道路・歩道構台・防音パネル
  • 環境安全費:交通誘導員・安全標識・近隣対策
  • 動力用水光熱費:工事用電力・用水・仮設電気水道設備

現場管理費の内訳

現場管理費とは、現場の運営・管理に必要な経費です。

  • 労務管理費:作業員の安全衛生・採用費用・作業服費用
  • 従業員給料手当:現場監督・事務員の給料・賞与
  • 安全訓練費:安全・衛生・研修訓練にかかる費用
  • 保険料:工事保険・火災保険・労災保険
  • 租税公課:固定資産税・自動車税・印紙代

建設業会計と一般会計の違い

建設業の施工費(工事原価)を理解するうえで、建設業会計の特徴を押さえておくことが重要です。建設業会計は一般的な商業会計や工業会計とは異なる独自のルールがあります。

勘定科目の違い

建設業会計では、一般会計とは異なる特有の勘定科目を使用します。

一般会計建設業会計内容
売上高完成工事高完成した工事の売上
売上原価完成工事原価完成工事にかかった原価
売掛金完成工事未収入金完成工事の未回収代金
仕掛品未成工事支出金未完成工事にかかった費用
前受金未成工事受入金未完成工事の前受代金

原価計算の違い

建設業では個別原価計算を採用します。これは、工事ごとに個別に原価を計算する方法です。

計算方法内容主な業種
総合原価計算一定期間の原価合計を生産数で割る製造業(大量生産)
個別原価計算工事・プロジェクト単位で個別に計算建設業(受注生産)

原価要素の違い

一般的な原価計算では「材料費・労務費・経費」の3要素ですが、建設業では「外注費」を加えた4要素で構成されます。建設業では外注費の占める割合が大きく、原価管理の観点から独立して管理することが重要だからです。

原価管理とは?

原価管理とは、製品やサービスの提供にかかる費用(原価)を管理することです。建設業においては、工事ごとにかかる材料費や人件費などのコストを正確に計算し、あらかじめ定めた予算内に収まるようにコントロールする一連の活動を指します。

原価管理の目的

原価管理には、主に3つの目的があります。

目的内容
予算管理計画した予算と実際の費用を比較し、予算超過のリスクを監視する
実績管理工事が進むにつれて発生するコストを記録・集計する
費用予測進捗状況から将来的な費用を見積もり、資金需要を把握する

建設業で原価管理が重要な理由

建設業において原価管理が特に重要とされる理由は以下のとおりです。

1. 利益率が低い傾向にある

建設業は他の産業と比較して利益率が低い傾向にあり、ひとつの工事の成否が経営全体に与える影響が大きいという特徴があります。

2. 工事期間が長期にわたる

プロジェクトは個別受注生産であり、工事期間が長期にわたることが多いため、資材価格の変動や予期せぬトラブルなど、原価が変動するリスクを常に抱えています。

3. 財務諸表への影響

建設業法では、「完成工事原価」と「完成工事高」を損益計算書に計上する旨が定められています。適切な原価管理は、建設業許可の取得・更新にも影響する重要な業務です。

原価管理の進め方【4つのステップ】

原価管理の進め方【4つのステップ】

原価管理を成功させるためには、計画→実行→統制→改善のサイクル(PDCAサイクル)を回すことが重要です。具体的な4つのステップを解説します。

ステップ1:標準原価の設定(Plan)

工事の目安となる「標準原価」を設定します。標準原価とは、工事開始前に目標値として定める原価のことです。

【標準原価設定のポイント】

  • 過去の類似工事のデータを参考にする
  • 材料費・労務費・外注費・経費ごとに積み上げて算出
  • 利益率の目標を考慮した金額設定
  • 見積書と実行予算の両方を作成

【見積書と実行予算の違い】

書類目的内容
見積書発注者への提示施工費+利益を含んだ工事価格
実行予算社内での原価管理より詳細な材料・労務の単価・数量

ステップ2:実際原価の記録(Do)

工事が進むにつれて、実際にかかったコスト(実際原価)を費目ごとに記録・集計します。

【記録すべき項目】

  • 材料の使用量・購入金額
  • 作業員の出面(労務投入量)
  • 外注業者への発注金額・支払い状況
  • 経費の発生状況

【記録の頻度】

  • 日次:作業員の出面・材料使用量
  • 週次:進捗状況の確認・原価集計
  • 月次:予算と実績の比較・分析

ステップ3:差異分析(Check)

標準原価と実際原価を比較し、差異が発生している原因を分析します。

【差異分析のポイント】

  • 費目ごと(材料費・労務費・外注費・経費)に比較
  • 差異が大きい項目から優先的に原因を究明
  • 計画よりも大幅に増えている項目がないかチェック
  • 材料ロスや人件費の増加などの異常値を早期発見

【よくある差異の原因】

費目よくある原因
材料費価格変動・ロス発生・数量見積もりミス
労務費作業効率低下・残業増加・人員過剰
外注費追加発注・単価変更・工程遅延
経費予期せぬトラブル・天候不順による遅延

ステップ4:改善策の実施(Action)

差異分析の結果をもとに、改善策を講じます。異常値を早期に察知できれば、工程調整や追加発注コストの見直しなど柔軟に対処ができます。

【改善策の例】

  • 材料発注のタイミング・数量の見直し
  • 作業員の配置・人員計画の調整
  • 外注業者との単価交渉・業者変更
  • 工程の見直しによる効率化
  • 次回工事への反映(標準原価の修正)

原価管理が難しいと言われる5つの理由

多くの建設業者が原価管理の重要性を認識している一方で、「難しい」と感じる企業も少なくありません。その背景には、建設業特有の事情が存在します。

理由1:勘定科目が特殊

建設業会計では、国土交通省が定めた「建設業法施行規則」に従った特殊な勘定科目を使用します。一般的な商業会計や工業会計の勘定科目とは異なるため、習熟に時間がかかります。

理由2:原価要素が4つある

一般的な3要素に加えて「外注費」を独立して管理する必要があります。外注費と労務費の区分が複雑で、正確な振り分けに迷うケースが多く発生します。

理由3:計上タイミングが複雑

工事の進捗に合わせて売上や原価を計上する必要があり、収益を分割計上したり、入金に先行して発生した経費を「未成工事支出金」として計上したりすることがあります。

理由4:現場と経理の連携が必要

原価管理には、現場と経理部門の密な連携が不可欠です。しかし、現場担当者がExcelで作成した日報を経理担当者が手入力しているケースが多く、二重入力の手間や転記ミス、情報のタイムラグが発生しがちです。

理由5:工事ごとの個別管理が必要

工事現場ごとに原価を管理する必要があり、間接費の配賦作業が煩雑になります。配賦基準に従い手作業で配賦を行わなければならない場合、経理担当者の負担が大きくなります。

利益率を改善する5つのポイント

建設業の利益率は粗利益率で18〜25%、営業利益率で4〜5%程度が目安とされています。利益率を改善するためのポイントを5つ紹介します。

ポイント1:正確な原価計算で適正価格を設定

原価をしっかり把握できていないと、利益率の低下につながります。見積り作成時には、正しい原価計算のもと、利益率の目標を決めたうえで、適正価格で作成できるようにしましょう。

【適正価格設定のチェックポイント】

  • 材料費・労務費・外注費・経費を正確に積算しているか
  • 目標とする利益率を考慮した価格になっているか
  • 資材価格の変動リスクを織り込んでいるか
  • 見積りの有効期限を適切に設定しているか

ポイント2:赤字受注を避ける

競合との価格競争に巻き込まれ、利益が見込めない工事を受注してしまうと、最初から赤字が確定してしまいます。受注前に実行予算を作成し、赤字受注を抑止することが重要です。

【赤字受注を防ぐポイント】

  • 安すぎる価格で受注しない
  • 受注前に実行予算をシミュレーション
  • 最低限必要な粗利益金額を把握しておく
  • 価格だけでなく品質や技術力で差別化

ポイント3:リアルタイムで原価を把握

工事完了後に「思ったより利益が取れていなかった」と気づくのでは遅すぎます。工事の進捗に合わせてリアルタイムで原価を把握し、異常があれば早期に対処することが重要です。

【リアルタイム把握のポイント】

  • 日次・週次で原価実績を集計
  • 予算と実績の差異をチェック
  • 異常値を早期に発見して対処
  • 原価管理システムやクラウドツールを活用

ポイント4:作業効率を向上させる

無理なコストカットをするよりも、手間を減らして作業効率を上げることが重要です。効率的な人員配置や工程管理により、生産性を高めましょう。

【作業効率向上の具体策】

  • 工程表の最適化で無駄な待ち時間を削減
  • 適材適所の人員配置
  • ITツールの活用(積算ソフト・工程管理アプリなど)
  • 現場と本社間の情報共有をスムーズに

ポイント5:固定費を見直す

変動費だけでなく、固定費も利益率を下げる要因のひとつです。販売費や一般管理費(販管費)が売上に対して適正な割合になっているか見直しましょう。一般的に、販管費は売上の15〜20%が目安とされています。

原価管理を効率化する方法

原価管理を効率化するためには、以下の方法が効果的です。

方法1:原価管理システムの導入

建設業向けの原価管理システムを導入することで、手作業の負担を軽減し、正確な原価管理が可能になります。

【システム選定のポイント】

  • 建設業会計の勘定科目に対応しているか
  • 工事進行基準・工事完成基準に対応しているか
  • 見積り〜発注〜支払いまで一元管理できるか
  • 他のシステム(会計・工程管理)と連携できるか

方法2:工数管理システムの活用

工数管理システムを使えば、出勤簿のように現場ごとでどの作業に何時間行ったか記録をつけるだけで、手軽に労務費の管理が行えます。Excelでの管理と比べて、同時編集が可能で集計作業も自動化できます。

方法3:施工管理アプリの活用

施工管理アプリを活用することで、現場と本社間の情報共有がスムーズになり、リアルタイムでの原価把握が可能になります。日報入力や写真管理、工程管理などの機能を組み合わせることで、原価管理の精度が向上します。

まとめ

施工費とは、工事を行うために直接かかる費用の総称です。建設業会計では「工事原価」として、材料費・労務費・外注費・経費の4要素で構成されます。

建設業で利益を確保するためには、受注段階で適正価格の見積書を作成し、工事中は原価管理を徹底することが重要です。計画→実行→統制→改善のPDCAサイクルを回しながら、リアルタイムで原価を把握し、異常があれば早期に対処しましょう。

原価管理を効率化するためには、ITツールの活用がおすすめです。施工管理アプリを導入することで、現場と本社間の情報共有がスムーズになり、正確な原価管理が実現できます。

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