建設現場において、工事を安全かつ効率的に進めるためには「施工管理」が欠かせません。その中核を成すのが「4大管理」と呼ばれる品質管理・工程管理・安全管理・原価管理の4つの要素です。これらは相互に密接に関連しており、どれか1つでも疎かにすると工事全体に悪影響を及ぼします。

本記事では、施工管理の4大管理それぞれの内容と具体的なポイント、さらに近年注目される「環境管理」を加えた5大管理についても解説します。
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施工管理の4大管理とは
施工管理の4大管理とは、建設プロジェクトを成功に導くために必要な「品質管理(Quality)」「工程管理(Delivery)」「安全管理(Safety)」「原価管理(Cost)」の4つの管理項目を指します。これらの頭文字をとって「QCDS」とも呼ばれます。
4つの管理項目は独立しているように見えますが、実際はすべてが連動しています。例えば、工程管理がうまくいかなければ納期に追われて品質が低下したり、安全対策が疎かになったりします。また、品質を追求しすぎるとコストが膨らみ、原価管理に支障をきたすこともあります。施工管理者には、これら4つの要素をバランスよく管理する能力が求められます。
参考:国土交通省「適正な施工のための技術者の役割等の明確化」
品質管理(Quality)
品質管理とは、建築物やインフラ設備が設計図書や仕様書で規定された品質基準を満たしているかを確認・管理する業務です。建物の強度、寸法、材質、機能などが適切であるかを検査し、長期的に安全で耐久性のある建造物を実現することを目的としています。
品質管理の具体的な業務内容
品質管理では、工事の各段階において以下のような業務を行います。
着工前の準備として、設計図や仕様書の内容を関係者全員で確認し、品質基準や検査項目を共通認識として持ちます。使用材料の種類・数量・品質の事前チェックも重要です。
施工中の検査・記録では、コンクリート打設前の鉄筋の配置確認、コンクリートの強度試験、材料の荷姿確認などを実施します。各工程で写真撮影を行い、品質の証拠を記録として残します。これらの記録は、後から問題が発生した際の検証資料としても活用されます。
竣工時の最終確認として、完成した建設物が設計図通りの寸法や仕上がりになっているか、指定された材料が正しく使われているかを細かくチェックします。
品質管理のポイント
- 設計図書や仕様書の品質基準を正しく理解し、関係者全員で共有する
- 材料の受入検査を徹底し、規格外の材料を使用しない
- 工程ごとに写真撮影を行い、施工記録を確実に残す
- 品質試験(コンクリート強度試験、鉄筋の配置検査など)を適切なタイミングで実施する
- PDCAサイクルを回し、品質異常が発生した場合は原因究明と是正措置を講じる
- チェックリストを活用して検査項目の漏れを防ぐ
工程管理(Delivery)
工程管理とは、工事が定められた工期内に完了するよう、全体のスケジュールを計画・管理することです。機械や労働力、資材などを効率よく運用し、納期を守るための活動全般を指します。工程管理は原価管理や品質管理にも通じるため、施工管理の要といっても過言ではありません。

工程表の種類
工程管理を行うために作成する工程表には、主に以下の種類があります。
| 工程表の種類 | 特徴 | 適した用途 |
|---|---|---|
| バーチャート | 縦軸に作業名、横軸に日程を配置し、各作業の期間を棒グラフで表示 | 作業数が少ない工事、短期工事 |
| ガントチャート | 縦軸に作業名、横軸に達成率を記載 | 各作業の進捗状況を把握したい場合 |
| ネットワーク式 | ◯と→を用いて各作業の関連性を明確化 | 複雑な工事、大規模プロジェクト |
| グラフ式 | 縦軸に出来高、横軸に日数を配置 | 進捗率の視覚的な把握 |
| 出来高累計曲線 | 作業量や進捗をSカーブで表現 | 工事全体の進捗傾向の把握 |
工程管理のポイント
- 工事開始前に作業内容を洗い出し、適切な順序と期間を設定する
- 天候不良や従業員の欠員などを考慮し、余裕を持った工期設定を行う
- PDCAサイクルを回し、計画と実績に差が生じた場合は速やかに工程を見直す
- 現場の状況に応じて適切な種類の工程表を使い分ける
- 毎日・毎週の進捗確認を行い、予定工程と実施工程を比較する
- クリティカルパス(最長経路)を把握し、遅延が全体に影響しないよう管理する
安全管理(Safety)
安全管理とは、建設現場で作業員や近隣住民が事故に遭わないよう、安全な環境を整備する業務です。建設業は高所作業や大型機械の使用など危険を伴う作業が多く、労働災害が発生しやすい業種です。厚生労働省のデータによると、建設業における死亡災害は全産業の中でも高い割合を占めており、安全管理は4大管理の中でも最も優先すべき要素とされています。
安全管理の具体的な取り組み
安全衛生管理計画の作成では、労働災害防止対策の基本方針や目標を定め、1年単位で計画を立てます。重要施策や定期的に行うべき活動を明文化することで、現場全体での安全意識の統一を図ります。
日常の安全活動として、朝礼でのKY活動(危険予知活動)、5S運動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)、ヒヤリハット事例の共有などを実施します。これらの活動を通じて、作業員全員の危険予知能力を高めます。
設備・環境の整備では、手すりや安全ネットの設置、消火設備の配置、適切な照明や換気の確保などを行います。また、作業員の安全帯着用やヘルメット着用を徹底します。
安全管理のポイント
- 安全第一を最優先事項として、すべての作業に先立って安全確認を行う
- 作業手順書を作成し、危険を伴う作業の手順を明確化する
- 機器・設備の定期点検を怠らず、故障や誤作動による事故を防ぐ
- ヒヤリハット事例を収集・共有し、重大事故を未然に防ぐ
- 体調不良を報告しやすい雰囲気づくりを行い、無理な作業を防止する
- 新規入場者教育や定期的な安全教育を実施し、安全意識を継続的に高める
- 天候(雨天時の滑り、強風時の飛散物など)に応じた対策を講じる
原価管理(Cost)
原価管理とは、工事にかかる費用(材料費、労務費、外注費、経費)を管理し、予算内で工事を完了させることで適正な利益を確保する業務です。建設業は他産業と比較して利益率が低い傾向にあり、原価管理の巧拙が会社の経営に直結します。
工事原価の構成
建設業における工事原価は、主に以下の4つの要素で構成されています。
| 費目 | 内容 |
|---|---|
| 材料費 | 工事に使用する資材・材料の購入費用 |
| 労務費 | 作業員の人件費 |
| 外注費 | 協力会社への発注費用 |
| 経費 | 機械のレンタル料、現場管理費、交通費など |
原価管理の流れ
実行予算の作成では、工事を受注した後、見積原価を見直し、現実的で詳細な予算を策定します。過去の類似工事のデータや最新の仕入れ価格を参考に、精度の高い予算を組むことが重要です。
原価の記録・集計として、日々発生する原価を正確に記録します。仕入れた資材の伝票、作業員の日報、外注先への発注書などから情報を収集し、工事ごとに集計します。
予実比較・分析では、実行予算と実際原価を比較し、差異が発生している場合は原因を究明します。予算超過の兆候を早期に発見し、対策を講じることが重要です。
是正措置として、原価オーバーの原因が判明したら、施工計画の見直しや工程の最適化などにより原価を圧縮します。
原価管理のポイント
- 精度の高い実行予算を作成し、利益目標を明確にする
- 材料の選定や仕入れ先の見直しにより、コスト削減の余地を探る
- 工事の進行中も定期的に予実比較を行い、原価オーバーの兆候を早期発見する
- 無駄な作業や待機時間を減らし、労務費の効率化を図る
- 原価管理システムを導入し、リアルタイムでの情報共有と分析を可能にする
- 取引先への強引なコストダウン要求や現場環境の悪化は避け、持続可能な原価管理を行う
4大管理の相互関係
4大管理は独立した項目ではなく、相互に密接に関連しています。どれか1つに問題が生じると、他の項目にも悪影響を及ぼします。
工程と原価の関係では、工期を短縮しようとして突貫作業を行うと、人員の追加や残業代により原価が増加します。逆に、工期に余裕を持たせすぎると、現場経費が膨らみます。
工程と品質の関係では、無理なスケジュールで作業を進めると、品質チェックが疎かになり、手抜き工事や施工不良につながるリスクがあります。
安全と工程の関係では、安全対策を軽視して作業を急ぐと労働災害のリスクが高まります。事故が発生すれば工事が中断し、結果的に工期が大幅に遅れることになります。
品質と原価の関係では、過度なコスト削減は品質低下を招きます。一方、品質を追求しすぎると原価が膨らみ、利益を確保できなくなります。
施工管理者には、これら4つの要素のバランスを取りながら、プロジェクト全体を最適化する能力が求められます。
5大管理(環境管理の追加)
近年は、従来の4大管理に「環境管理(Environment)」を加えた5大管理(QCDSE)が標準となりつつあります。環境管理とは、工事現場が周辺の生活環境や自然環境へ与える影響を最小限に抑えるための取り組みです。
環境管理の具体的な内容
周辺環境への配慮として、騒音や振動、粉じんの発生を防止するための養生や防音シートの設置、工事車両の排気ガス対策、泥の流出防止などを行います。
自然環境への配慮として、建設現場周辺の空気・水・地盤・土壌への影響を最小限に抑える施策を講じます。
廃棄物の適正処理として、産業廃棄物の分別・リサイクルを推進し、不法投棄を防止します。
省エネ・CO₂削減として、省エネルギーを意識した施工計画の立案や、環境負荷の低い資材の選定などを行います。
4大管理を効率化する方法
施工管理の4大管理を効率的に行うためには、以下のような取り組みが有効です。
施工管理システムの導入
クラウド型の施工管理システムを導入することで、工程表や図面、原価情報を一元管理し、現場からリアルタイムで情報を共有できます。紙や手作業による確認を減らすことでミスを抑え、作業効率を大幅に向上させることができます。
施工管理技士資格の取得
施工管理技士は国家資格であり、建築・土木・電気・管工事など7種類に分かれています。資格を取得することで、専門知識や技術が認められ、より大きな責任を持つポジションへのキャリアアップにつながります。
コミュニケーションの強化
施工管理では、発注者・作業員・協力会社・役所関係者・近隣住民など、多くの関係者と連携を取る必要があります。日頃から円滑なコミュニケーションを心がけ、情報共有を徹底することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
よくある質問
Q. 4大管理の中で最も優先すべきものは?
A. 一般的に「安全管理」が最優先とされています。事故が発生すると人命に関わるだけでなく、工事の中断により工程・品質・原価すべてに悪影響を及ぼすためです。ただし、状況に応じて他の管理項目の優先度が高くなることもあり、バランスを取ることが重要です。
Q. 施工管理と現場監督の違いは?
A. 厳密には異なります。「施工管理」は施工計画から予算・書類作成、安全対策など工事現場に関連するすべての事項を管理する業務です。「現場監督」は主に工事現場での作業を監督する業務を指します。ただし、実務上は同じように扱われることも多いです。
Q. 4大管理と5大管理の違いは?
A. 4大管理(品質・工程・安全・原価)に「環境管理」を加えたものが5大管理です。近年の環境意識の高まりや法規制の強化により、環境管理の重要性が増しています。さらに「労務管理」を加えた6大管理という概念もあります。
Q. 施工管理に必要なスキルは?
A. リーダーシップ、コミュニケーション能力、スケジュール管理能力、問題解決能力、危機管理能力などが求められます。また、ExcelやWordなどの基本的なパソコンスキル、施工管理システムの操作スキルも必要です。
まとめ
施工管理の4大管理(品質管理・工程管理・安全管理・原価管理)は、建設プロジェクトを成功に導くための基本的な管理要素です。それぞれの管理内容とポイントをまとめると以下の通りです。
- 品質管理:設計図書通りの品質を確保するため、材料検査・施工検査・記録を徹底する
- 工程管理:工期内に工事を完了させるため、適切な工程表を作成しPDCAサイクルを回す
- 安全管理:労働災害を防止するため、安全教育・設備点検・KY活動などを実施する
- 原価管理:適正な利益を確保するため、実行予算を作成し予実管理を徹底する
これら4つの管理は相互に関連しており、バランスよく実施することが重要です。また、近年は環境管理を加えた5大管理が標準となりつつあります。施工管理システムの活用や資格取得、コミュニケーションの強化により、効率的かつ効果的な施工管理を実現しましょう。

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